FCゼニト・サンクトペテルブルクの新ホームスタジアム、「ガスプロム・アリーナ」=PhotoXPress撮影
やむなく第2スタジアム建設へ
サンクトには近々、新スタジアムがお目見えする。だがそれは、2007年に着工されたものの、問題だらけで建設が長引いている「ガスプロム・アリーナ」ではない。それは、2万5千人収容の人工芝を備えたスタジアムで、建設を担当するのはスイスのNussli社。スポーツ施設のスピード建築に特化した企業だ。
同社のスポークスマンによると、このプロジェクトは、ゼロの状態から8~10ヶ月で竣工するという。このような記録もののスピード建築が可能なのは、その「モジュール性」による。つまり、スタジアムのいくつかの部分――更衣室、座席など――が、完成した状態でサンクトに運ばれてくるわけだ。
この新スタジアムは、完成の暁には、ゼニトの2軍の試合に使われることになるが、FIFA(国際サッカー連盟)とUEFA(欧州サッカー連盟)のあらゆる基準に適合しているので、UEFAチャンピオンズリーグなどをふくめ、国際トーナメントの試合にも使える。
建設費が10億ドルを突破
マクシム・ミトロファノフ・ゼニト会長は、この新スタジアムの建設は、窮余の一策だとしている。「今シーズン、ロシアは、予備のスタジアムが払底していることを露呈した。CSKAモスクワが、UEFAチャンピオンズリーグの試合をサンクトで行う羽目になったことだけでも、状況がわかるというものだ。2万5千人収容の新スタジアムは、ゼニトにとってだけでなく、露サッカー界全体にとっても“保険”となる」。ミトロファノフ氏は、こう指摘した上で、不安も漏らした。
「我々のホームスタジアムの建設がこんなに延びているのは、正直言って不安だ。建設を仕切っているのは、サンクトペテルブルク市政府だが、工期はもう何度も延ばされている。我々は、どんな状態で、いつ完工するのか、見当もつかない。できあがっても、はたして使い物になるかどうか疑問だ」
ミトロファノフ氏の不安は十分理解できる。「ガスプロム・アリーナ」の工期は、既に19回も、“下方修正”されている! そして、その度に、総工費が膨れ上がってきた。2006年には、ワレンチナ・マトヴィエンコ市長(当時)の見積もりが2億5千万ドル(約250億円)だったのが、現在は10億ドル(約1000億円)を突破している。
建設会社も振り回された?
「工期は2016年7月で、費用は349億ルーブル(11億ドル=約1100億円)。最終的な額は修正されるかもしれないが、いずれにしても減る方向だろう」。「トランスストロイ」社広報部長であるアナスタシア・ゴルデーエワ氏は、ロシアNOWに対してこう述べた。同社は、「ガスプロム・アリーナ」建設の主要な請負企業だ。
ところで、同社は、当初からこの建設を手がけているわけではない。最初に請け負ったのは「アヴァント」社であり、「トランスストロイ」社は2番目だが、“前任者”の仕事ぶりには不平たらたらだ。とくに、スタジアムを支える骨組みが、厳しい寒さで変形し、建て直しを余儀なくされたという。
おまけに、2010年には、「ガスプロム・アリーナ」は2018年のW杯の主要会場に選ばれ、準決勝の試合の一つがここで行われることになった。これはつまり、スタジアムの収容人員は、6万人超でなければならないということ。請負業者には晴天の霹靂だった。その結果として、建設は半年間停止されたという。
このスタジアムには、既に11億ドルが費やされてしまったが、因みに、2006年にドイツで開催されたW杯では、あらゆるスタジアムの建設と改修に投資されたのは、計19億ユーロにとどまった。
「史上最高額のスタジアム」
FIFAの東ヨーロッパおよび中央アジア地域の顧問であるワレリー・チュフリ氏の意見では、「ガスプロム・アリーナ」は、史上最も高額なサッカー・スタジアムになるだろうという。「私はしばしばロシアを訪れているが、W杯に向けてのスタジアム建設の動きはまったく感じられない」。こうチュフリ氏はロシアNOWに語った。
「私はこのスタジアムに関する“数字”を見たが、たぶん、最終的に、ロンドンのウェンブリー・スタジアムの改修にかかった費用を上回るだろう(この伝説的スタジアムの改修工事は、2003~2007年に行われ、総額15億7000万ドルを要した)。ご記憶かと思うが、2012年にウクライナは、あわやUEFA欧州選手権を開催する権利を奪われるところだった。あのときは、ウクライナ人のほうが、後で大変になるから、1年目から建設に入らねばならないと釘を刺していたのだが、我々は悠長に構えていた」
一方、請負企業のスポークスマンは、支出された金額で、あらゆる利便性を備えた超現代的なスタジアムができる、と請合っている。ゴルデーエワ氏によれば、スタジアムのあるクレストフスキー島は、吊り橋で、サンクトの各地区と結ばれるという。さらに、歩道橋も造られ、観客は速やかにスタジアムに到着できる。また、設計者は、サンクトの気候が植物の生育にとって厳しい点を考慮し、冬季にフィールドをスタジアム外に運び出せるような設計にした。また、観客と選手の便宜を考え、悪天候の場合は、屋根を閉じられるようにしている。
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