ウラジーミル・クリチコ(左側)とロシアのアレクサンドル・ポヴェトキン=タス通信撮影
2004年のオリンピックチャンピオンとここ10年で最もタイトルに恵まれている重量級ボクサーの対戦に関する交渉は、5年近くも続いた。双方の折り合いがつかないために試合が先送りされてきたのだが、ボクシング界の上層部が仲裁役となって双方に契約を交わすよう促し、ファイトマネーは2300万ドルと決まった。
今回の試合は、37歳のウラジーミル・クリチコにとって今年二度目のリングとなる。5月に行われた前回の試合で、クリチコは、イタリアのフランチェスコ・ピアネタと対戦して6回TKO勝ちを収めた。ポヴェトキンとの対戦は、クリチコにとってすでに24度目の世界タイトルマッチとなる。
一方、34歳のアレクサンドル・ポヴェトキンは、最高のコンディションで自身のボクシング人生を賭けた大一番に臨む。ポヴェトキンの前回の試合は、やはり今年5月に行われ、プロで通算27勝を挙げているポーランドの無名のボクサー、アンジェイ・ワウルジクとの防衛戦で、3回TKO勝ちを収めた。
いかにクリチコの「鋼鉄のハンマー」を封じるか
ポヴェトキンに対するボクシング界の評価は、今のところ定まっていない。オリンピックチャンピオンであり、申し分のない戦績(26戦26勝)とファイティングスピリットを具えたプロボクサーであることは確かだが、これまで本格派のハードパンチャーと対戦したことがないため、トップクラスのボクサーとの戦いぶりは今も未知数のままだ。
ポヴェトキンは、クリチコの従来の対戦相手とは異なり、怖気づかず、力の絶頂にあり、相手をノックアウトでマットに沈めると豪語することもない。来る一戦は、ポヴェトキンにとって、ギャラのためではないまさに真剣勝負の場であり、世界最強のボクサーとなる大きなチャンスなのだ。専門家らによれば、ポヴェトキンは、クリチコにとって最大のライバルであり、クリチコに勝てるボクサーの筆頭に挙げられる。
シドニーオリンピックのチャンピオン、アレクサンドル・レブジャーク氏は、ポヴェトキンが勝利すれば、重量級ボクシングの発展に弾みがつくとみなし、こう語る。「ポヴェトキンは、その不屈の闘志によりこの一戦をものにするチャンスがあります。現段階において、重量級で勝利を収めてこの階級をさらに面白くさせられる唯一の人物ですね。サーシャ(ポヴェトキンの愛称)は、さほどパンチを食らわなければ、判定で勝てるかもしれず、ガードを堅くして足を活かせば、その可能性も十分あります。ドイツのマルコ・フックやアメリカのハシーム・ラクマンとの試合のようなレベルだと、クリチコにポイントを重ねられてしまうでしょう」。
試合展開の予想
ブックメーカーたちは、ウクライナのボクサーが断然有利とみており、ポヴェトキンが勝利する確率は、6対1となっている。そうした予想の背景には、クリチコの豊富な経験、磨き抜かれた防御、長年王座を守ってきた実績がある。ここ何年もクリチコのあのジャブを制することのできたボクサーは一人もいないが、ポヴェトキンは、ダークホースであり、一泡吹かせることのできるひじょうに手ごわい相手といえる。
世界ボクシング評議会(WBC)の元世界チャンピオン、ユーリー(勇利)・アルバチャコフ氏は、試合の展開をこう予想する。
「クリチコは、リスクを冒さずにインファイトを避け、アウトボクシングに徹してポイントを稼いでくるでしょう。KOという幕切れはまずありません。クリチコがアレクサンドルにノックアウトされるような大きなミスを犯すとは考えられませんから。ポヴェトキンのトレーナーやマネージャーが交代したことも、クリチコにとって有利ですね。ポヴェトキン陣営にはリングで起こりうるあらゆるシチュエーションに対応する明確なプランが欠けているように思えますが、闘志だけではクリチコに勝てません。試合が引き分けに終わり、両雄がそれぞれのタイトルを維持したまま新たなビッグマッチを企てる、というシナリオも考えられます。ボクシングは年を追うごとにますますビジネスと化しつつあるので、そうした可能性も除外できないでしょう」。
しかし、どちらが勝つにせよ、10月5日の一戦は、最高のショーとなる。リングアナウンサーを務めるのは、「戦いの準備はいいか!」のキャッチフレーズで知られるあのマイケル・バッファー氏である。会場は、満員札止めとなり、客席は、白青赤のトリコロールと黄と青のツートーンという両国の色に染まる。このチャンピオン対決の観戦チケットは、30ユーロから3800ユーロで、すでに完売されている。
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