世界陸上の名場面

イシンバエワのさよならジャンプ、ボルトの雷雨の疾走、ラシュマノワのダブルフィニッシュ…。モスクワでの陸上の世界選手権は、地元ロシアに金メダル7個と総合優勝という2001年のエドモント大会以来の好成績をもたらし、閉幕した。しかし、今大会は、メダル争いばかりでなく鮮烈な印象や迸る感情でも際立っていた。狂喜、悲痛、失望、落涙…、まさに人生の縮図だ。

有終の美 

 エレーナ・イシンバエワは、28度目の世界記録更新はならなかったが、4メートル89の跳躍でモスクワの観客を魅了した。地元での優勝で現役引退に花を添えたこの棒高跳びの名手は、こう語る。

 「私は有終の美を飾りたいと思っていましたが、好い成績で金メダルを獲ることができました。たとえ復帰できなくとも、爽やかに引退できたと振り返れます。この勝利はこれまででもっとも価値ある勝利です」。

 

ボルトと稲妻 

 世界最速ランナーのウサイン・ボルトの優勝は、大会前から確実視されていたが、このジャマイカのスプリンターは、ロシアの観客の期待を裏切らず、100メートルでは雷雨にもかかわらず他を寄せつけない走りを見せ、得意の200メートルでも勝利をものにし、コサックダンスで会場を沸かせた。

 ボルトは、8度の世界チャンピオンという称号を胸にモスクワを後にするが、さらに上を目指している。

 「すでに獲得したメダルを数えることはせず、前人未到の目標を達成しようと努めていますので、ぜひリオへ行きたいですね。私には伝説になるという夢があり、ロンドンオリンピックでそれを叶えましたので、これからは無敵のアスリートになりたいです」。

 

涙と国歌 

 女子1600(4×400)メートルリレーでロシアは久しく優勝から遠ざかっていたので、ゴール直後、選手たちは喜びを隠さなかった。最終走者のアントニーナ・クリヴォシャプカは、取材陣の前で涙をこらえきれず、こう語った。

AP通信撮影

 「ここ数年、ずっと二位や三位でしたので、優勝は悲願でした。これまで何度もリレーに出場し、表彰台に上りましたが、聞くのはよその国歌ばかり。今日は、地元の大歓声に包まれて自分たちの国歌を聞くことができ、それで涙がこぼれたのです」。

 

ダブルフィニッシュ

エレーナ・ラシュマノワ
=ミハイル・シニーツィン撮影/ロシア新聞

 女子20キロメートル競歩に出場したロンドンオリンピック金メダリストのエレーナ・ラシュマノワは、思わぬ勘違いにより優勝を逃すところだった。スタジアムに入って100メートルほど進むと足を止めたが、ゴールまであと一周残っていた。幸い、ゴールはまだとの声が耳に入り、幻の優勝とはならなかった。

 

ダンスやトルソー 

 今大会では、多くの選手が、感情をありのままに表現していた。男子円盤投げで優勝したドイツのロバート・ハルティングは、勝利の瞬間、恒例のシャツ破きをみせた。男子3000メートル障害で優勝したケニアのエゼキエル・ケンボイは、ケニアの国旗を身にまとい、民族ダンスを踊ってみせた。

 

世代交代

 モスクワでの世界陸上は、多くの優勝候補にとってまさに悪夢となった。ロンドンオリンピックの金メダリストたちが、相次いで不本意な結果に終わった。そのかわり、うれしい収穫もあった。

 たとえば、男子走り幅跳びのアレクサンドル・メニコフ。クラスノヤルスク出身のこの22歳の新星は、8メートル56という成績で優勝したばかりか、国内記録を二度更新し、世界記録も視野に入れている。

 「今日の最後の試技は大ジャンプでしたが、すっかり興奮してアドレナリンが出まくって踏み越えてしまいました。でも、いつか理想の跳躍で世界記録に挑みますよ」。