アントーニイ・ポゴレリスキイ 著
栗原成郎 訳
群像社
ロマン主義の作家アントーニイ・ポゴレーリスキイ(1787〜1836)の短編集の本邦初訳。ナポレオン侵攻時のモスクワが舞台の冥婚譚(めいこんたん)、人形愛による破滅というホフマン的主題の変奏など流麗な幻想が次々と展開され、息をもつけぬ面白さだ。
孤独な知識人が夜ごと出現する自分の分身と語り合うという設定も興味深い。この枠組みがあることで、個々の物語は「わたし」と分身との対話の過程で相対化され、重層的な陰影を帯びている。
「分身」が刊行された1828年には小説というジャンルはなお生成途上にあった。
名著「吸血鬼伝説」、「ロシア異界幻想」等の著者による正確で美しい日本語訳を通して、私たちは「小説」が確立する以前の、みずみずしく自由な散文の可能性に触れることができる。
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