新作ドラマ『罪と罰』をおススメする3つの理由

カルチャー
アレクサンドラ・グーゼワ
ロシア文学、そして世界の文学史を代表する作品の1つが、久々の映像化だ。

 2024年10月26日、ロシアのオンライン・プラットフォームKinopoiskの有料プランで新作ドラマ『罪と罰』の配信がスタートする。監督はヴラジーミル・ミルゾエフ。舞台は21世紀のサンクトペテルブルク。学生ロディオン・ラスコーリニコフは貧苦にあえぎ、妹は資産家の家で家政婦として働き、兄と母の生活を支えている。

『罪と罰』の映像化は稀

 『白痴』や『カラマーゾフの兄弟』は映像化作品が比較的多いが、『罪と罰』は映像化が難しい作品とされている。

 最後に映像化されたのは2007年、短めのドラマシリーズだった。それ以前のめぼしい作品は、レフ・クリジャノフ監督による1969年の映画までさかのぼる。この映画は高い評価を得て古典の1つに数えられるが、以後『罪と罰』は殆ど映像化されてこなかった。

 それだけに、新たにドラマ化されたことは、注目の出来事なのである。

豪華俳優陣

 主人公ラスコーリニコフ役は、イワン・ヤンコフスキー。有名な俳優一族の出身の彼は、ロシアのナンバーワン若手俳優と言って良いだろう。2023年に公開された『The Boy's Word: Blood On The Asphalt』は、ヤンコフスキーの出世作となった。

 ヤンコフスキーは狂気の淵に立たされた貧乏学生ラスコーリニコフを見事に演じきった。ミルゾエフ監督は、まさにヤンコフスキーのためにこの登場人物が描かれたと語っている。

 ラスコーリニコフの妹役は、人気女優リュボフィ・アクショノワ。無垢な天使から不良少女に一瞬で変身できる演技力が魅力の若手だ。今や有名女優のユリア・スニギルも出演している。

舞台を現代に変更

 一般に、ロシアでは古典文学への思い入れが非常に深い。そのため、映像化作品はいずれも原作の忠実な「再現」であることが多い。それだけに、制作陣がドストエフスキーの「聖典」を書き換えたのは、勇気ある決断と言えるだろう。もっとも、名作から骨子しか残らないことは、ドストエフスキーファンや古典文学ファンには不満かもしれない。

 一方、今回のドラマではドストエフスキーが示唆的にしか描写しなかったストーリーラインにも光を当てている点は注目すべきだろう。スヴィドリガイロフ夫妻の描写はより詳細になり、妹ドゥーニャのストーリーも明らかにされている。

 また、新キャラも投入された。ロシア版ロバート・ダウニーjr.の誉れ高いボリス・フヴォシニャンスキーが巧みに演じるのは、ラスコーリニコフの別人格ともいうべきキャラクター。肩に乗ってささやく悪魔のような役回りで、ラスコーリニコフに語りかけ、老婆殺害をけしかける。『カラマーゾフの兄弟』や『地下室の手記』にも通ずる描写である。

 ミルゾエフ監督いわく、このドラマは罪と罰、そして復活の物語だ。もっとも、視聴者が復活を目撃するのは、次のシーズンを待たねばならないようだ。