事実に触発された恋愛小説3選:事実は小説よりも奇なり…

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悲劇的な恋物語、無実の罪での懲役…。ロシア文学における印象的なプロットのいくつかは、作者が考え出したフィクションではなかった。

 トルストイの『戦争と平和』(1869年)やプーシキンの『大尉の娘』(1836年)など、史実を背景に描いた歴史絵巻は別として、ロシア作家たちは、日常生活から多くの題材を得てきた。以下はその好例だ。 

レフ・トルストイ『アンナ・カレーニナ』(1877年)

 アンナ・カレーニナ以前にも、ロシア文学の登場人物が自殺したケースはある。もっとも、彼らは、このヒロインのような方法は選ばなかったが。

 「さしものトルストイも、自分ではこんな場面は着想しなかっただろう。当時としては過激すぎたから」。作家・文芸評論家のパーヴェル・バシンスキーはこう考える。では、こんな急転直下の幕切れはどこから来たのか?実生活からだ。

 トルストイは、ヤースナヤ・ポリャーナの自邸の近くで起きた事件に衝撃を受けた。32歳の未婚女性、アンナ・ピロゴワが列車に身を投げたのだった。これは、トルストイの隣家の地主ビビコフに復讐するためで、彼女はその家政婦として働いていた。二人は内縁関係にあったのに、地主は別の女性(息子の家庭教師)に求婚した。

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フョードル・ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(1880年)

 ドストエフスキーの小説には殺人事件がよく出てくる。そして、『カラマーゾフの兄弟』の筋は、一見すると探偵小説を彷彿させる。 

 シベリアで懲役に服している間、作家はセンセーショナルな刑事事件について知った。実在の人物、ドミトリー・イリインスキーは、父殺しの罪で不当に告発され、刑務所に送られた。作家は、男が無実の罪で呻吟していることに衝撃を受けた。

 ドストエフスキーは、この「犯罪者」に実際に会いさえした。彼の物語は、小説のベースとなり、主人公の一人、ドミトリー・カラマーゾフは、彼の名前、外見の特徴、情熱的な性格、内面の高貴さを受け継いだ。

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アレクサンドル・クプリーン『ざくろ石の腕輪』(1911年)

 公爵夫人は、匿名の崇拝者から贈り物として、ざくろ石の腕輪を受け取る。長年にわたり、謎の見知らぬ人が、彼女に愛の言葉を綴った手紙を送り続けていた。こんな告白は、既婚女性を悩ませるだけだった。彼女は夫と弟に、迷惑な崇拝者を突き止め、腕輪を返すように頼んだ。

 その結果、彼女に恋していたのは、低収入の平凡な下級官吏だったことが分かった。どうやら、彼は貯金をすべて高価な腕輪に費やしたようだ。彼はもう公爵夫人に付きまとわないと約束し、別れの手紙だけを書いた。その中で、自分はこの愛だけで生きている、それだけが唯一の喜びだと記していた。 

 執拗な崇拝者、ざくろ石の腕輪、深刻な手紙、もう女性に付きまとわないという約束――これらすべては、現実の世界で起きた。それは、クプリーンの友人の妹においてだった。

 しかし作家は、物語の結末をよりドラマチックにした。不幸な主人公は自殺する。そして公爵夫人も、別れの手紙を見て泣く。しかし実際には、それはいずれもなかったことだ。

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