トルストイの『戦争と平和』(1869年)やプーシキンの『大尉の娘』(1836年)など、史実を背景に描いた歴史絵巻は別として、ロシア作家たちは、日常生活から多くの題材を得てきた。以下はその好例だ。
アンナ・カレーニナ以前にも、ロシア文学の登場人物が自殺したケースはある。もっとも、彼らは、このヒロインのような方法は選ばなかったが。
「さしものトルストイも、自分ではこんな場面は着想しなかっただろう。当時としては過激すぎたから」。作家・文芸評論家のパーヴェル・バシンスキーはこう考える。では、こんな急転直下の幕切れはどこから来たのか?実生活からだ。
トルストイは、ヤースナヤ・ポリャーナの自邸の近くで起きた事件に衝撃を受けた。32歳の未婚女性、アンナ・ピロゴワが列車に身を投げたのだった。これは、トルストイの隣家の地主ビビコフに復讐するためで、彼女はその家政婦として働いていた。二人は内縁関係にあったのに、地主は別の女性(息子の家庭教師)に求婚した。
ドストエフスキーの小説には殺人事件がよく出てくる。そして、『カラマーゾフの兄弟』の筋は、一見すると探偵小説を彷彿させる。
シベリアで懲役に服している間、作家はセンセーショナルな刑事事件について知った。実在の人物、ドミトリー・イリインスキーは、父殺しの罪で不当に告発され、刑務所に送られた。作家は、男が無実の罪で呻吟していることに衝撃を受けた。
ドストエフスキーは、この「犯罪者」に実際に会いさえした。彼の物語は、小説のベースとなり、主人公の一人、ドミトリー・カラマーゾフは、彼の名前、外見の特徴、情熱的な性格、内面の高貴さを受け継いだ。
公爵夫人は、匿名の崇拝者から贈り物として、ざくろ石の腕輪を受け取る。長年にわたり、謎の見知らぬ人が、彼女に愛の言葉を綴った手紙を送り続けていた。こんな告白は、既婚女性を悩ませるだけだった。彼女は夫と弟に、迷惑な崇拝者を突き止め、腕輪を返すように頼んだ。
その結果、彼女に恋していたのは、低収入の平凡な下級官吏だったことが分かった。どうやら、彼は貯金をすべて高価な腕輪に費やしたようだ。彼はもう公爵夫人に付きまとわないと約束し、別れの手紙だけを書いた。その中で、自分はこの愛だけで生きている、それだけが唯一の喜びだと記していた。
執拗な崇拝者、ざくろ石の腕輪、深刻な手紙、もう女性に付きまとわないという約束――これらすべては、現実の世界で起きた。それは、クプリーンの友人の妹においてだった。
しかし作家は、物語の結末をよりドラマチックにした。不幸な主人公は自殺する。そして公爵夫人も、別れの手紙を見て泣く。しかし実際には、それはいずれもなかったことだ。
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