1921年にロシアを訪れた際、コルビュジエは国内を周遊し、プスコフにも立ち寄った。彼は古い教会建築、特にザプスコヴィエの神現教会に感銘を受けた。
プスコヴァ川右岸に建つこの白壁の教会は15世紀末の建築である。教会からは素晴らしい眺望が開けている。教会建築もそうした風景に溶け込むようで、回廊を盛り込んだ複雑な設計や、壁面が力強い印象を与える鐘楼が特徴だ。
このプスコフの教会の面影は、コルビュジエが1950年代中頃に設計したロンシャンのノートルダム・デュ・オー礼拝堂からうかがえる。雄大な船を思わせるコンクリート建築は、ギリシャのパルテノンの遺跡やイタリアのヴィッラ・アドリアーナ、そしてプスコフの神現教会など、コルビュジエが建築から受けたイメージの最も濃い部分を反映している。
建築評論家のオリガ・ママーエワは、「ル・コルビュジエがロンシャンの礼拝堂を設計する際、ザプスコヴィエの神現教会からインスピレーションを得たと言われています。恐らく、これは部分的には真実でしょう。実際、ロシアの中世建築は彼に強い印象を与えており、それは彼の多くの手紙や日記が裏付けています。しかし、この2つの建築を直接には比較できません。個々の部分に見られる共通点を挙げる方が正確です。2つの建築はいずれも高台に建っており、自然との調和や、景観への溶け込みといった点が、最も目につきやすいでしょう。各部の釣合いや、複雑な非対称の構成、白壁、装飾の意図的な排除など、プスコフの教会とロンシャンの礼拝堂は似ています。ただし、重要なのは、コルビュジエの建築は様々な伝統、それも、時には相反するような要素が互いに調和して統合されているものだということです」と指摘する。
コルビュジエの傑作礼拝堂は、2016年にユネスコ世界遺産に登録された。プスコフの教会は、2019年に登録されている。