1. 『僕はモスクワを歩く』より、「僕はモスクワを歩く」
歌詞は、「世の中は良いことがいっぱい…」という一行から始まるが、歌詞の通り、映画も全編が雪解けの時代の若さと希望に溢れた雰囲気に満ちている。歌うのは、主役を演じたニキータ・ミハルコフ。後のオスカー受賞監督であるが、本作は彼が初めて映画で貰った大きな役だった。作曲はアンドレイ・ペトロフ、作詞はゲンナジー・シュパリコフ。この歌は、非公式ながらモスクワの市歌のような位置付けになっている。
2. 『遠い日の白ロシア駅』より、「望むは勝利のみ」
「皆のための勝利に、代償はいとわない」。ブラート・オクジャワが手がけたこの曲で繰り返されるフレーズだ。戦争を語る代表的な歌の1つである。作中、終戦から20年後に再会した戦友たちは、目に涙を浮かべてこの歌を歌っている。毎年、5月9日になるとこの歌はあらゆるコンサートで流れ、TVでは『遠い日の白ロシヤ駅』が必ず放送される。
3. 『ダイアモンド・アーム』より、「不運の島」
このアッパーな一曲は、危うくソ連の人々まで届かないところであった。モスフィルムの審議会は、歌が挿入されたシーンがストーリーの進展を妨げているとして、カットしようとした(加えて、歌詞は反ソ的とも評価され得た)。しかしレオニード・ガイダイ監督は当該シーンを守り通し、結果、映画も歌も大人気となった。
4. 『ダイアモンド・アーム』より、「ウサギの歌」
同じ『ダイアモンド・アーム』から、もう1つのヒット曲。「どうでもいいさ」と通称される歌だ。歌うのは、俳優のユーリー・ニクーリン。腕のギプスにダイアモンドを埋め込まれてしまった主人公を演じている。作中、レストランで犯罪者集団と会った際、泥酔状態でこの歌を歌う。ウサギは怖がってばかりだが、それでも自分のやるべき事をやっているのだ、という、ポジティブな歌である。
5. 『作戦コード<ウィー>とシューリクのその他の冒険』より、「汽車よ待ってくれ」
母の姿を一目見るため、車掌にブレーキを踏んでくれるように頼む息子の、せつない歌である。しかし、ガイダイ監督の代表的コメディである本作でこの歌を歌うのは、作中もっともギャグテイストな登場人物の小悪党だ。名優ユーリー・ニクーリンの手にかかれば、「危険なドロ沼にはまってしまった」という歌詞も、なにやら可笑しく思えてくる。
6. 『運命の皮肉、あるいはいい湯を』より、「あなたが私に夢中でなくて良かった」
こんにちに至るまで不動の「お正月映画」のポジションを堅持して愛されている『運命の皮肉、あるいはいい湯を』。作中ではエヴゲニー・エフトゥシェンコ、ベーラ・アフマドゥーリナ、ボリスパステルナークなど、高名な詩人の詩を音楽にのせて歌っている。その中から1曲だけ選ぶのは至難の業だが、マリーナ・ツヴェターエワの詩をアーラ・プガチョーワ(彼女が歌の部分を吹き替えた)が歌ったこの1曲が一番人気だろう。
7. 『モスクワは涙を信じない』より、「アレクサンドラ」
もう1つ、非公式のモスクワ市歌があるとすれば、それはオスカー受賞作『モスクワは涙を信じない』の冒頭で流れるこの歌だろう。歌い出しの「何事も時間のかかるもの、モスクワも一日にして成らず」は、箴言として記憶された。アレクサンドラはヒロインの名だが、登場するのは後半に入ってから。作曲を担当したセルゲイ・ニキーチンは、妻のタチヤナとのデュエットでこの歌を作中で歌っている。
8. 『さよなら、メリー・ポピンズ』より、「変化の風」
多くのアーティストがカバーした、最も有名なロシアの楽曲の1つ。児童向けファンタジー映画のサントラから、時代を超えたヒット曲にまでなったが、一番の要因は、そのポジティブさであろう。明日には風が変わり、悪に代わって優しさがやってくるだろう、という希望を与えてくれる。
9. 『カーニバル』より、「電話して」
ソ連のディスコヒットといえば、これ。作中では見事なミュージック・ビデオつき。歌のテーマともなっている電話は、1980年代には極めてアクチュアルだった。不幸な恋愛を経験した女性たちにとって、この歌は魂の叫びであったろう。主演のイリーナ・ムラヴィヨーワに代わり、歌は歌手のジャンナ・ロジェストヴェンスカヤが吹き替えた。
10. 『エレクトロニックの冒険』より、「翼のあるブランコ」
ソ連育ちなら誰もがノスタルジーを感じる、児童の歌の代表格だ。急いで大人になる必要は無い、しかし皆を明るい未来が待っている、という主旨の歌である。「空と風と、喜びばかりが先にある!」というあたりは、実にソ連的と言えよう。作中ではボリショイ劇場の児童合唱団が良く響く美声で歌っている。