ウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』のショートサマリー

カルチャー
ニコライ・シェフチェンコ
 当初は、ポルノ小説扱いされたが、その後、ベストセラーになり、ついには古典的名作とされるようになった。

 悶々としている中年男が、思春期前の少女を誘惑する機会を捉える。彼は少女をアメリカ中連れ回し、後先のことを考えずに快楽に耽るが…。

ストーリー

 小説『ロリータ』は、ハンバート・ハンバートという架空の人物が書いた手記という体裁だ。この物語は、彼が自分の生涯を振り返る回想だが、どの程度信憑性があるのかよく分からない。とにかく、手記は、12 歳の少女ドローレス・ヘイズへの、語り手(ハンバート)の熱烈な恋にフォーカスしている。少女は、「ロリータ」という愛称で呼ばれている。

 物語の開始早々、読者は、ハンバートが 9~14 歳くらいの少女の性的魅力に生涯執着してきたことを知る。彼は、こういう少女を「ニンフェット」と呼び、魔女さながらに自分を魅惑すると言う。これとは対照的に、性的に成熟した大人の女性は、彼を嫌悪させるだけだ。

 ある時、ハンバートは、ニューハンプシャーのリゾートタウン、ラムズデールを訪れ、35 歳の未亡人シャーロット・ヘイズの家に泊まることにする。彼は実は、シャーロットも、彼女の家も気に入らないが、それでもそこを宿にしたのは、シャーロットの 12 歳の娘に夢中になったからだ。彼は、娘を愛情込めてロリータと呼ぶ。

 ハンバートは、少女にどうにもならず惹かれる衝動を抑えることができないが、疑われないように慎重に振舞う。ロリータといっしょにいる機会を探し求め、わずかな身体的接触から性的満足を得る。彼はまた、少女への日々の妄想を日記に記す。

 ハンバートが嫌悪していたシャーロットが、彼に求婚すると、彼は、彼女をうまく操って、利用しようと思う。つまり、彼女と結婚して、ロリータの親権を取得し、少女のそばにいつもいる正式の理由を得ようとする。

 シャーロットが不慮の交通事故で死ぬと、ハンバートは、ロリータの唯一の親として彼女を連れて、アメリカ中を彷徨う。ある夜、ホテルで彼は、ロリータに睡眠薬を飲ませ、睡眠中に彼女を愛撫しようと企てるが、結局、その夜はあきらめる。しかし、彼の手記によると、翌朝、ロリータのほうがもちかけて、ハンバートとセックスする。

 ハンバートとロリータの関係は、ハンバートがますます執着を強め、嫉妬するようになり、一方、彼女の言動が不安定になるにつれて悪化していく。

 ハンバートはようやくビアズリーに落ち着いたかに思われたが、ロリータを抑えられなくなる。少女は、利己的なもくろみでロリータを欲しがっている劇作家クレア・クィルティに誘惑される。

 ハンバートはロリータをこの街から遮二無二連れ去ろうとするが、彼女は逃亡する。苦悩するハンバートは残りの夏を、ロリータとその愛人の探索に費やすが無駄だった。

 数年後、ハンバートは、ロリータからの手紙を手がかりについに彼女の居所を突き止める。彼女の話によると、彼女はクィルティといっしょに逃げたのだった。クィルティは、邪悪なやり方で彼女を利用しようとしたので、彼女は逃げ出し、今は別の男と結婚しているという。

 ハンバートには、ロリータはもはや「ニンフェット」とは思えないが、それでも彼女への愛情を感じており、いっしょに逃げてくれと彼女に頼む。しかし、ロリータは拒絶する。

 絶望したハンバートは、クィルティを殺害し復讐する。そして、逮捕、投獄…。彼は、手記で、彼流に事件を語り、獄中で病死する。一方、ロリータは出産中に死ぬ。

小説の背後に潜む意味は?

 ナボコフは、 1946 年に米国でこの小説を書き始めた。小説を完成させるのに 8 年かかったが、米国では、出版を引き受けた出版社はなかった。一見、ポルノのジャンルに傾斜して見えたからだ。結局、小説は前衛文学とポルノを専門とするフランスの出版社から出版された。

 この小説はさまざまに批評され、出版業界でスキャンダルを引き起こした。傑作と呼ぶ人もいれば、卑猥なポルノと決めつける人もいた。しかし、米国で出版されると、ベストセラーとなり、ナボコフは世界的な名声を得た。

 ナボコフ自ら、この作品をロシア語に訳している。作品は、1967 年にはソ連にも入って来て、非合法で広まった。いわゆるサミズダート(地下出版)だ。ソ連の批評家たちは、この小説に異口同音に非難を浴びせた。

 今日でも、この小説は依然として論議を呼ぶ「不穏な」作品だ。一部の読者は、人気のポルノ本として片付ける。1950 年代の素朴な大衆に衝撃を与えたという、その理由だけで。

 しかし、『ロリータ』を、詩的な散文、隠されたテーマ、微妙な暗示、風刺、思考の糧を豊かに兼ね備えた傑作と呼ぶ人もいる。確かに、この小説には、小児性愛者とその犠牲者をめぐる主なプロットを超えて、複数の層がある。

 作者ナボコフはそこで、さまざまなテーマを探求している。人々の運命が結局は公平であること、人間が自分の生活を支配しようとする欲求、そしてその挫折。さらに禁断の愛、タブー、利己主義、現代社会における消費主義、疎外などなど。

 注目すべきは、作者が、完璧なレトリックの技法を駆使して、懐疑的な読者に対し、少女性愛の傾向を主人公に弁護させることにより、言葉と修辞による説得の力のほどを示していることだ。

 とにかくこの作品は、1955年に出版されて以来、スキャンダル、注目、さまざまな批評、非難を呼び起こし、ロシアとアメリカの古典的名作の中で最も物議を醸す小説の1つになった。

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