古代から現在に至るまで、ロシア人のほとんどはドモヴォイの一つの迷信を信じている。ロシア人がある程度の期間家を空ける時、出発する前に最後にすることは、「前途を祈って」わずかな時間でも腰かけることだ。昔のロシア人は、家の精霊であるドモヴォイをなだめるためにこの儀式をしたのである。
彼らは、ドモヴォイは家人が突然いなくなると怒ると信じていたので、「前途を祈って」腰かけることにより、家の守護神に尊敬の意を表した。ドモヴォイの主な特徴とは何であろう?
ロシアの民話において、ドモヴォイは自分の家族を大切にし、家事を手伝う。ペチカの火をまもったり、穀物や小麦粉を乾燥させるのは彼の仕事である。ロシアの村々では、ドモヴォイは牛の世話をし、馬のたてがみを梳かし、夜間に牛を宥める。だから、ドモヴォイは、納屋にも住み着くとされている。ドモヴォイは牧草地に初めて行く前の春先と秋に牛の世話をするよう頼まれる。
ドモヴォイの主な特徴の一つは危険な事が起こるのを予知すること。何か悪いことが起こりそうになるとドモヴォイが姿を現す。その時には何か騒々しくなる、風が吹くような唸りが聞こえたり、家のまわりの物を吹き飛ばしたり、家族の誰かの姿をして現れたりするのだ。
民族誌学者たちが意見を一にするのは、ドモヴォイはキリスト以前からロシアの民話の中に登場していたということである。多くの民族において、家の精霊は、一族の始祖がなると考えられている。そうであるので、ドモヴォイは英国のブラウニーとは違うし、何か悪戯っ子のようなものでもなく、力強く家を護る霊なのである。
ドモヴォイは家に宿る精霊であるため、目に見える形で現れることはめったになく、姿を見せる時も家の家長か祖先の一人になって現れる。ちょうどあごひげをたくわえた老人の姿で。
ロシア人は、自分の姿を目にするということは、自分に「姿」を変えたドモヴォイを見たと言うことで、これは、忍び寄る病か死の悪い前兆であると信じている。ドモヴォイは何かつらいことや危険な事が起こるのを知らせるために現われることが多いのである。
ロシアの田舎で信じられていることには、ドモヴォイの好きな場所は、ペチカの下や後ろ、屋根裏、ドアの陰などである。ドモヴォイは邪魔をされることを嫌う。彼らにはやるべき家事がたくさんあるからだ。
ロシアの農村部に住む人々は、家にドモヴォイがいないと暮らしていけないと信じている。そのため、引っ越しをするときには、ドモヴォイも一緒に「連れて行く」伝統がある。農家の家族が古い家から新しい家に移るとなると、ドモヴォイは古い樹皮で編まれた履き物(ラーポチ)に入れられ、箒か炭火をのせたショベルの上で「運ばれる」。
新たに建てられた家にドモヴォイを招き入れるには、「生贄」が用意される。古代の大工が家を建てる前に動物(山羊か家禽類)を生贄に捧げたという伝統を受け継いだものだ。
家が汚れていたり、家族の間での罵り、いさかい、喧嘩 ― これらのことがあるとドモヴォイは怒る。下着をつけずに寝たり、(女性が)髪を覆わずに外に出たり、夜間に働いたり、食事せずにベッドに向かうと、家の精霊はこれらのことにも不愉快になり、ものを投げ散らかしたり、寝ている間に掛布をはがしたりと、あらゆる困りごとをやらかす。
以上のことから分かるように、ドモヴォイの「行動基準」は、愚かなことや、ロシアの厳しい気候の中で暮らすにおいて危険なこと(食事せずに寝るといったような)を諫めるものだ。他の民話に出てくる精霊と同じように、ドモヴォイを信じることで、小さな子供でも理解できるように、簡単な家庭生活のルールを教えているわけである。そして、その意味で、実際にドモヴォイは家事を大いに助けてくれていると言えるのである。
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