これは、伝説の映画「レッドブル」(1988年)に登場するアーノルド・シュワルツネッガー演じる主人公のセリフである。また、ご存知のように、ロシアの男たち(名前は必ずボリスかイワン)は乳幼児のころからカラシニコフ銃で遊び、ウシャンカ帽をかぶり、バラライカを愛し、家では鎖に繋いだ熊を飼っている。お酒を飲むときには、「ナ・ズドローヴィエ!」(健康のために!)と言い、水の代わりにウォトカを飲む。そして男たちは、偉大で恐ろしいロシアン・マフィアのメンバーである。そしてスーツを着ているか、アディダスのスポーツウェアを着ている。
映画「アルマゲドン」(1998)に描かれたロシア人の役レヴ・アンドロボフ大佐
Michael Bay/Touchstone Pictures, 1998ロシアの女性についてはさらに分かりやすい。まず彼女たちは絶対に信じてはならない。ロシア人女性は皆、ナターシャという名の驚異的な美女であるが、実際にはKGBのエージェントで、チャンスを狙ってあなたを殺そうとしている。
こうしたことを見聞きしたとき、ロシア人は「クリュークヴァ!」と言う(そしてもちろん、手のひらで顔を覆う)。
しかし、ここでなぜ突然、夏のベリーの名前が出てくるのか?
「クリュークヴァ」という表現は、ロシアに関して、現実からかけ離れた(あるいはまったく関係のない)もっともおかしなステレオタイプ、外国人が持つ固定観念のことである。この表現は元々「枝を四方に広げたクリュークヴァ」というものであり、オジェゴフの辞典には、「真実とはかけ離れた、それとはまったく無関係のものについての」アイロニカルな表現とある。この「枝を四方に広げたクリュークヴァ」というのが、この表現の意味を示している。
クリュークヴァ
Dennis Osipov/Getty Imagesクリュークヴァ、つまりクランベリーが生育しているところを1度でも見たことがある人なら、クランベリーは高さ2〜3㌢の低い場所で、地面を覆うように生育しており、「枝を広げる」ことはできないことを知っている。つまり、自然界に「枝を四方に広げたクリュークヴァ」などというものは存在しないのである。しかし、19世紀末にロシアについての旅行記を記した外国人は、「枝を四方に広げたクリュークヴァ」の下で散歩したと綴り、ロシア人たちの笑いを誘った。以来、この表現がイディオムになったと言われている。
もう一つ、単純な翻訳のミスからきたという説もある。英語には、カリーナ(=ガマズミ属の植物)を表す言葉がない。赤い食べられる実をつけた低木カリーナは、一見、クランベリーに似ている。このカリーナ(ロシア語には個別の単語がある)は、英語ではハイブッシュクランベリーと呼ばれ、確かにこのハイブッシュクランベリーの下は散歩することができるのである。カリーナの茂みは最大5㍍にもなるからだ。
しかし、この表現が、故意に書かれたものであったとしても、あるいは誤って書かれたものであったとしても、このクリュークヴァに関する撞着語法はきわめて便利であることが判明した。というのも、当時すでに、ロシアに関する馬鹿馬鹿しいイメージというものは数えきれないほどあったからである。たとえば、1871年、「モスコフスキエ・ヴェドモスチ」は、パリで人気の日刊紙「イリュストラシオン」に掲載されたモスクワについての記事を紹介した。パリの日刊紙には、「クレムリンの敷地内に建てられたもっとも古い宗教的記念碑は救世主キリスト大聖堂である」と書かれていたのである。しかし、大聖堂は当時まだ完成もしておらず、またクレムリンとは何の関係もない。「モスコフスキエ・ヴェドモスチ」の筆者は、この機会を逃さず、「フランスの旅行者が、ロシアでクリュークヴァの木陰に(à l’ombre d’une klukva)座った」と綴ったあの良い時代の香りがする」と指摘した。
この表現は何度もロシアの出版物の中で使われ、たちまち日常生活の言葉に取り入れられるようになった。「クリュークヴァ」と認定される現象のリストはどんどん増え、時代と共に変わっていった。1908年、ロシアは外国で、「枝を四方に広げたクリュークヴァの陰で、農民たちがサモワールという飲み物を飲んでいる(サモワールは飲み物ではなく、古代ロシアの湯沸かし器)」国として、そして現在は、ロシア人は1人残らず全員、共産主義者で、国民の2分の1がスパイである国として知られるようになったのである(サモワールは飲み物ではなく、古代ロシアの湯沸かし器)。そしてそんな「クリュークヴァ」はまだまだたくさんある。どんなものか知りたい方はこちらからどうぞ。
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