『ウィッチャー』に出てくるレーシー:ロシア人の目から見ると何か変…

カルチャー
ゲオルギー・マナエフ
 Netflixのダーク・ファンタジー『ウィッチャー』のシーズン2で、ゲラルトとその仲間たちは、スラヴ民話のキャラクター「レーシー」に遭遇し戦う。しかし、ロシア人の目から見ると、このレーシーは、スラヴ民話のそれとは全然違う。『ウィッチャー』新シーズンの「レーシー」における最も明白な矛盾を見ていこう。

*ネタバレの恐れあり!

 「『レーシー』とはどんなやつだったか?まるで一人のように歩き、話した」。『ウィッチャー』のシーズン2で、エスケルがこう語る。彼は、レーシーとの戦いから帰還したばかりだ。レーシーとは、スラヴ民間伝承の精霊で、森に棲んでいる。

 ただし、このシリーズでは、「leshy」(ロシア語では「le-shiy」のように発音される――леший)は、ロシア民話のそれとはまったく異なる。 『ウィッチャー』のシナリオライターは、「レーシー」のどこで正しく、どこで間違ったか?

「レーシー」は必ずしも木の妖怪ではなく、森の精である

 「レーシー」はおおよそ「森の中のもの」と訳せるが、決して木に似た妖怪というわけではない。スラヴ民話では、「レーシー」は、まず第一に、自由に何にでも姿を変えられる精霊だ。確かに、トウヒその他の木のように見えることもあるが、カラス、オオカミ、クマなどに自在に姿を変えられる。

 しかし大抵の場合、「レーシー」は人間のように見える。すでに亡くなった、または存命中の近親者に見えることもある。民俗学者が収集したロシア民話では、「レーシー」は主に老人の姿をしている。とはいえ「レーシー」はふつう、人間とはあまり接触したがらない。

 「それは、人間に自分を直視させない。常に背を向け、顔を見せない」。1916年に、アルハンゲリスク県(現在は州)のロシア人の農民は、民族学者ピョートル・ボガトゥイリョフにこう語った。 

「レーシー」は攻撃的ではない。森の番人だ

 「レーシー」は、人間を獲物として狩ることはない。その主な役割は、森とそこに棲む動物の世話をすること。森の生物や植生を大事にしないと、「レーシー」は怒り、復讐する。

 「アンドレイおじさんは、『レーシー』の家(樹齢100年のトウヒ)を切り倒し、すぐに後悔した。『レーシー』は長い間おじさんを悩ませ、森から村まで追いかけてきて、翌年には、アンドレイおじさんの納屋を焼き払った」。アルハンゲリスク県の別のロシア人農民は、1878年にピョートル・エフィメンコにそう話した。

 しかし、「レーシー」と戦おうなどと考えないほうがいい。何しろ彼は、森のあらゆる力を体現しているので、相手を倒すために攻撃的になる必要さえないのだ。

 だから、ゲラルトとその育ての親ヴェセミルと、「レーシー」に「寄生」されたエスケルとの戦いがいかに壮大華麗であろうとも、こんなことはスラヴ民話では決して起こり得ない。「レーシー」と戦うなど、ロシア人には考えられない。 

 ロシアの民話では、「レーシー」を殺した人については語られてない。「レーシー」を傷つけたり、そうしようとしたりすれば、その者はすぐに死にかねないのだ。

 だから、ヴェセミルは「心を燃やすことが(「レーシー」)をやっつける唯一の方法だ」などと言うが、これはスラヴ民話とは何の関係もない。

 また「レーシー」は、何かに「寄生」して自分に似た生き物に変えるようなことはできない。「レーシー」には、生物的な要素はなく、人間とはあまりにかけ離れている。

「レーシー」は常に悪天候のときに現れ、自分を人目にさらすことは滅多になく、森の外で活動することもできない

 ゲラルトとシリは、森の中で「レーシー」に遭遇する(エピソード3)。二人は、静寂の中、それに近づき、「レーシー」が木々の間に静止しているのを見る(再び木のように見える)。

 だが、スラヴ民話では、こういうことは起こり得ない。「レーシー」は常に、強風、視界不良、騒音、雷などと結びつく。要するに、ロシアの民族学者アーラ・ニキーチナが書いているように、「レーシー」は「常に動いており、平和と不動を嫌う」

 しかし、このエピソードの「レーシー」で『ウィッチャー』が正しかった点もある。その大きなきしむ音と叫び声だ。ロシア農民が「レーシー」に付けたあだ名の一つは「吠えるもの」だ。これは、森林の動物が発する音に関係している。

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