わたしは、かなり前から日本文化に興味があり、以前はVK (フ・コンタクチェ=ロシアのソーシャルネットワーク)「Japanese」という人気ブログを管理していました。あるとき、グループの参加者の1人であるナースチャ・ヤクニナさんが、日本から持ち帰ったという日本の妖怪のイラスト本を見せてくれたのです。これは鳥山石燕(1712年〜1788年)の妖怪図鑑の複写でした。わたしはこの絵に魅了され、これらの妖怪についてもっと知りたいと思ったのですが、ロシアでその情報を見つけるのは簡単ではありませんでした。ロシア語での情報はほとんど皆無でした。それで、自分たちで、このテーマの雑誌を、カッコよく、今風に作ろうと思ったのです。
わたしたちのプロジェクトは、説明のできない、謎めいた、訳のわからないものをテーマにしています。基本的には、「ジン」という発行数が少なく、出版社以外で印刷された小さな雑誌が中心です。
わたしはグラフィック・デザイナーなので、常にヴィジュアル面を重視しています。アカデミックな本はたいてい、装丁もデザインも味気ないものです。わたしたちは古い浮世絵をコピーするだけでなく、イラストを付け加えるようにしています。プロジェクトの基礎となっているのは、ロシアの素晴らしい若いイラストレーターたちとのコラボです。それぞれの記事に、異なるイラストレーターが挿絵を描いています。妖怪のクラシックなイメージに新たな解釈を加えるようなものになっています。こうしてわたしたちは伝統を繋いでいるのです。いま、第2巻の出版に向け、準備を行なっているところです。
現在、ロシアでは、他の国々と同じように、アジア、とりわけ日本への関心が高まっています。多くの人々が、日本のポップカルチャー、映画、伝統、文学、宗教、そしてもちろん、アンダーグラウンド文化に関心を持っています。
日本のフォークロアはその奇妙さでロシア人の読者を惹きつけています。妖怪のイメージは非常に独特で、極端な場合だと、催眠にかけられてしまうほどです。最近の日本のアーティストたちのシュールレアリズム的な作品を見ていると、人間のファンタジーを超えているような感じがして、どうやったらこのようなイメージが思いつくのか理解できないくらいです。実際、これは長年受け継がれてきた伝統なのです。数百年前に作られた巻物にも同じ生き物が出てきます。口承の伝統、そして日本人の想像の中ではきっともっと前から存在していたものでしょう。
さらに、日本のフォークロアでは、動物寓意譚が発展していて、非常に多くの種類のことなる動物が存在しています。これらの生物の中に、それぞれの時代に人々が最も恐れたものが反映されているのかどうかは興味があるところです。たとえば、かつて人々は、密かに髪を切ると言われる髪切りという妖怪を恐れました。髪型は社会的地位を示すものであり、髪を失うのは恐ろしかったからです。
そしてもちろん、これらの生き物の伝統的な描き方がどう進化してきたのかを見るのも面白いです。 巻物、図鑑、浮世絵、いずれもグロテスクで表現豊かに描かれています。ロシアには妖怪を描くこれほど豊かな伝統はありません。妖怪を描くという文化がなかったのです。
わたしは意味不明で馬鹿馬鹿しい妖怪が好きです。たとえば、さがりという妖怪がいるのですが、馬の首だけの姿をしていて、路傍の古いエノキの木にぶら下がった形で現れ、夜中に道を行く人々を、鳴き声で脅かしたりするのです。人を食べるカタツムリ女の妖怪や如意自在という、自分では手の届かない背中のかゆい部分を掻いてくれるだけの妖怪も大好きです。
わたしの趣味に影響を与えたのは横尾忠則のポスターです。家に、横尾忠則の画集がいくつかありますが、騒々しい絵やネオンカラーに惹かれるのは横尾忠則の影響だと思います。それから、マッチ箱や怪獣のおもちゃなど、日本の古い雑貨などに対する嗜好もあります。
日本には1度しか行ったことがありませんが、また行きたいと思っています。昨年、妖怪をテーマにした三次もののけミュージアムというのができたのですが、そこに行きたいです。素晴らしいコレクションがあるそうなんです。それ以外にも、日本の自然、ネオン看板のある通りなど、すべてが恋しいです。それから古本屋!これはわたしにとっては地上の楽園です。