現代ロシアの背筋も凍るディストピア5選:ポスト黙示録の世界

カルチャー
アレクサンドラ・グゼワ
 デリケートな方は、この記事をスルーしてほしい。でも、アドレナリンの猛烈な亢進を感じたい人には、現代ロシアの作家による文明崩壊後の世界を描いた傑作を5つご紹介しよう。

1. ストルガツキー兄弟『ストーカー』(原題は『路傍のピクニック』)

 1970年代に、いくつかの奇妙な「ゾーン」が地球上に現れた。物理学の法則はそこでは働かない。これらのゾーンはどうやら、他の惑星の高度な文明によってつくられたらしい。

 人々はこれらのゾーンに立ち入ることはできない。しかし、いわゆる「ストーカー」(法律を無視する人々)は、ゾーンに入り込み、異文明が残していった奇妙な遺物を収集し、闇市場でそれらを売って金を稼ぐ。しかし、それらの遺物が悪人の手に渡った場合は、人類に危険を及ぼすかもしれない。ストーカーたちは日々、自分の生命を危険にさらしているが、もはやゾーンなしでは生活できないことも認識している。

 これはおそらく、SF作家のストルガツキー兄弟が書いた最も有名な作品の一つだろう。アンドレイ・タルコフスキー監督の名画『ストーカー』をインスパイアしている。また、ゲームシリーズ『S.T.A.L.K.E.R.』のベースにもなった。

 

2. ドミトリー・グルホフスキー『メトロ2033』

 世界の大都市のほとんどは、第三次世界大戦の核攻撃の応酬で完全に破壊されてしまった。わずかな人々が生き残り、世界最大の核シェルターであるモスクワ地下鉄に隠れた。これらの少数の生き残りは、地下鉄のトンネルに野菜を植えようとする。また一部の勇敢な「ストーカー」は、地表の危険な世界に上って、薬と武器を持ち帰る。

 この小説は、2002年に若き作者がオンラインでアップロードすると、驚異的な人気をもたらした。彼がいくつかの続編を執筆し、このプロットに基づいたビデオゲームを制作したのも当然だ。 

 またグルホフスキーは、「メトロユニバース」をスタートさせた。これはファンフィクション小説のシリーズで、彼のオリジナル・プロットを模倣または継続するものだ。

 さらに、グルホフスキーは最近、『POST』を書き、オーディオショーを録音した。この作品は、大戦争と疫病の後のロシアを描いている…。国のあらゆる地域に伝染病が蔓延しており、ヴォルガ川の警備隊は感染者がモスクワに入れぬようにしている…。真に迫る怖さだ!(ちなみに、今ならば、ビデオ配信プラットフォーム「Storytel」で、ロシア語版を30日間無料で試用できる!)

 

3. タチアナ・トルスタヤ『Slynx』

 黙示録後の世界では、すべてが劇的に変化した。言語を含め、人々が築き、創ったあらゆるものが破壊された。人間はもはや存在せず、そのかわりに不思議な言語を話す奇怪な生き物がいる。

 スリンクスとは「闇の力」だ。誰も見たことはないが、その遠吠えで他の者たちを驚かす。突然、殺したり脳を奪ったりすることもある。この忌まわしい恐るべき生き物は、終末後の都市での生活をさらに困難なものとする。

 トルスタヤは、19世紀の文豪レフ・トルストイの子孫。この小説を書くのに14年かかったという。多数の言葉遊びや造語があり、カリカチュア的な俗語や卑猥語を駆使している。

 

4. セルゲイ・ルキヤネンコ『ナイト・ウォッチ』

 我々が生きる普通の人間の世界のほかに、異人(アザーズ)――魔法使い、魔女、吸血鬼など――の世界がある。彼らは、人間のような外見を持ち、我々に混ざってモスクワに住んでいる。しかし、異人の世界は、「光の勢力」と「闇の勢力」のそれに分かれており、両者は戦っている。

 大戦争の後、両陣営は休戦に同意したが、お互いを監視し続けている。『ナイト・ウォッチ』は、一連の小説の第一作だ。「光の勢力」は、「闇の勢力」が暴走して邪悪な計画を実行し、普通の人間に害を及ぼさぬように、見張っている。もちろん、誰もがルールに従っているわけではないから、事件が起きる。

 ルキヤネンコは現在、ロシアだけでなく海外でもファンタジーとSFの分野のレジェンドとなっている。1980年代に作品を発表し始め、上の分野で数々の賞を受賞した。『ナイト・ウォッチ』に続き、『デイ・ウォッチ』、『ダスク・ウォッチ』など、一連の「ウォッチもの」を書いている。

  ルキヤネンコが本格的に名声を得たのは、2004年にティムール・ベクマンベトフ監督により『ナイト・ウォッチ』(およびその続編)が映画化されてからだ。

 ところでルキヤネンコによると、『ナイト・ウォッチ』は、ジョージ・R・R・マーティンの『氷と炎の歌』(『ゲーム・オブ・スローンズ』としてドラマ化)とは何の共通点もないという。

 

5. ヤナ・ヴァグネル『ヴォンゴゼロ』

 神秘的で致命的なインフルエンザがモスクワに蔓延し、市全体が閉鎖されている。サバイバルする方法を求めて、主人公のセルゲイは家族全員とともに、ロシア北部のカレリア共和国に逃げようとする。そして、ヴォンゴゼロ湖の人が住んでいる島に居を定める。

 孤立した閉鎖空間に押し込められた家族は、隠れて生き残るだけでなく、各々の個人的な問題を解決する必要もある。自宅で隔離された人にとって、この本は痛切に感じられるだろう。

 この小説は、前回のパンデミック、つまり2011年の豚インフルエンザ流行の時期に書かれた。そして、インターネット上に登場し、ヴァグネルの作家デビューを飾った。

 以来、彼女はディストピア小説をいくつか書いた。『ヴォンゴゼロ』は、2019年秋にドラマ化されて、『疫病』として放映されている。ビデオ配信プラットフォーム「PREMIER」で、ロシア語で視聴できる。「PREMIER」は、コロナウイルスで自宅待機を余儀なくされた人のために、アーカイブを無料で公開している。

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