ロシア人は悪い霊からどうやって身を守るか?

Konstantin Chalabov/Sputnik
 ロシア人がキリスト教を受容したのは1000年以上前のことであるが、いくつかの異教の儀式はいまも人々の生活の中に生きている。

1.    敷居のお守り 

 キリスト受容前、スラヴ人たちは親戚の1人を家の敷居の下に埋葬するという習慣があった。生きている家族を守ってもらうためである。スラヴ人は敷居が生と死の世界の境界であると考えていたのである。そこで家を建てる段階で、敷居の下にお守りを埋めることもあった。地域によって、それぞれのお守りがあったが、よく見られたのは守護者のシンボルがついたナイフや小石など尖ったものであった。敷居の上にもお守りを吊り下げた。それは馬の蹄鉄やヨモギの枝、ニンニクだったりしたが、お守りの印を描くだけの場合もあった。敷居の近くで見つかった物品は、とりわけコインや糸、針、プラトーク(スカーフ)の織地は呪いをかけられたものだと捉えられ、それを跨いだり、素手で掴んではいけないとされていた。

 今も生きている敷居にまつわる習慣は非常にたくさんある。たとえば敷居ごしにキスしたり、会話したり、贈り物を手渡してはいけないというもの。あとドアを開けたまま敷居に立ってはいけないとも言われている。悪霊を起こすからである。

 

2. 窓の框は飾りではない 

 伝統的なロシアの家を見ると、玄関に木彫りの飾りがあるのを目にすることがあるだろう。これは単にデザイン性からきているものではない。古代、あらゆるシンボルや模様に神聖な意味があった。框の中心にはぐるっと陽光が伸びる半円が(太陽は命のシンボル)、丸太の列には馬や鶏が描かれた。馬は異教の神ペルーンのシンボルであり、家の庇護者と考えられていた。一方、鶏は悪の力が住む闇を追い払う賢明な鳥と見なされていた。またそれぞれの家の窓には必ずカーテンがかけられていたが、それは「悪の目」に覗かれないようにするためであった。

 大きな木彫りの装飾は、玄関ホール、手すり、屋根などにもつけられた。ロシアの北方では、伝統的に白鳥(水害から守ってくれる者)、鹿(一族の庇護者)、馬の頭の輪郭などが好まれ、ときに口を開けた想像上のヘビ、または耳とツノのついた怪物(生の世界と死の世界の境界線を守ってくれる)が描かれた。南方の装飾はそれほど変わったものではなく、手綱を垂らした馬の顔(馬はすべてのスラヴ人にとっての重要なシンボルの一つであった)を描くことが多かった。

 こうしたキリスト受容前のシンボルは、現代の木造の家の玄関でも目にすることがある。

3. お守りの装飾 

 人間を汚れた力から守るため、洋服に特別なマークや模様の刺繍を入れた。刺繍はブラウスの襟、ベルト、袖など洋服のラインに沿って施された。血の繋がった親戚の手で施された刺繍はより大きな力を持つと考えられた。

 スラヴ人にとって特に聖なるシンボルとされたのは円の中に十字架が描かれたもの(邪視から守ってくれる炎の目)、螺旋(宇宙のシンボル)、半月(多産)、穂(幸福)などであった。稀に刺繍の模様の中に、異教の神の姿が見られることもあった。紡錘を手に、自分の運命を編むマコシ(家の主)、ロジャニツァ(一族の繁栄の守り神)、スヴァロガ(手工業者のための男のお守り)、ヴェレサ(農耕者のためのお守り)などである。枕につけられたお守りのマークは悪夢から守ってくれるものであった。赤い色の刺繍はもっとも強力なものとされ、ロシアのおとぎ話では女の子たちはみつ編みに赤いリボンや赤い花を編み込んだという描写がある。

 時とともに刺繍は単なる装飾となり、「ロシア風」スタイルを強調するために用いられるようになった。たとえばソ連時代には、「共産主義的な」刺繍が施されたタオルに丸いパンを乗せて外国の代表団を歓迎した。

 お守りの模様はペンダント、ブレスレット、髪飾りなど金属や木で作られた女性のアクセサリーにも施された。

4. 邪視から身を守る人形 

 スラヴの人たちは悪の力の影響をもっとも強く受けるのは新生児であると考えていた。そこで、新生児には刺繍だけでなく、布で作ったベレギーニャ(ロシア語の守るからきた言葉)という顔のない人形を作った(顔を通じて、悪い霊が棲みつくと考えられていたため)。人形には刺繍の入った伝統的な衣装が着せられ、頭には赤い糸が巻かれた。人形は概して、赤ちゃんだけを守ったわけではない。新婚夫婦や妊婦には健康を願って贈られ、また子供たちにはよく眠れるようにと贈られた。顔の代わりに古代の太陽のシンボルである十字架が刺繍されることもあった。

 人形を作ることができたのは、生をつなぐ者である女性だけであった。もっとも強い力を持つのは親戚の女性たちが一緒に作った人形である。人形は着古した洋服でしか作れないことになっていたほか(人間のエネルギーを持っているとされた)、布はハサミでは切らず、手で破いた。

 

5. 悪の力から身を守ってくれる自然 

 スラヴ人は世界の多くの民族と同様、自然に治癒力があると信じ、悪いことから身を守ってくれるものと考えていた。邪視から身を守るもっとも簡単な方法は泳ぐこと、あるいは単に流水で顔を洗うことであった。それによって悪いエネルギーを流し去ることができると考えたのである。炎もまた浄化のための儀式で使われた。たとえば、イワン・クパーラの夜に若者たちは病を燃やすために焚き火をまたいだ。

 ルーシ時代、塩もまたお守りの一つと考えられていた。塩は悪いものをすべて取り除いてくれるとされ、人々は塩を小さな袋に入れ、持ち歩いた。家ではドアや窓の上にヨモギの枝を吊り下げ、悪い力を追い払った。ヨモギは旅に出た人たちを無事に家に帰れるよう守ってくれるものであった。

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