イヴァン・クルィロフの寓話を今の世界に当てはめると:19世紀作家の現代性

画像:ナタリア・ノソワ
 イヴァン・クルィロフ(1769~1844年)は、ロシアで最も有名な寓話作家で、ロシアのイソップとも言うべき存在だ。彼は、ロシア文学における寓話のジャンルを究め、200以上のオリジナル作品を著し、イソップとラ・フォンテーヌの再話も残している。2019年2月13日は、クルィロフの生誕250周年を迎える。彼が現代の事件、社会現象にどう反応するか、ひとつ想像してみようではないか。

① 猿とGoogle Glass(グーグルグラス)

 クルィロフに「猿とメガネ」という寓話がある。そのあらすじは次の通りだ。

 猿は、年をとるにつれて目が見えにくくなり、メガネを買った。しかし、それをどう使うべきか、どこにかけるべきかは知らなかった。それで、さっぱり視力が良くならないので、猿は怒り狂い、メガネをこわしてしまった。

 2019年の今、クルィロフがいたとしたら、高価で非実用的な“おもちゃ”を買うことに首をかしげただろう。人々はますます洗練されたガジェットを手に入れ、そしてたいていは自撮りや電話のためだけにスマートフォンを使っている。

 無知であればあるほど、ますます高価で洗練されたデバイスを熱狂的に手に入れ、しかも新しいものにとっかえひっかえしていく。ガジェットがスバラシイほど、持ち主の自分も賢くなるように思いこみながら。 

② 白鳥とカマスとBrexit(イギリスの欧州連合〈EU〉脱退)

寓話「白鳥とエビとカマス」のあらすじ――

 白鳥とエビとカマスがいっしょに荷馬車を引っぱることにした。みな一生懸命にがんばった。ところが、白鳥は雲の中に向かって引っぱり、エビは後ずさりし、カマスは水中に引きずった。だから荷物は動かず、今でもそこにある。

 クルィロフはこの寓話を、ナポレオン戦争における対仏連合国のてんでんばらばらの行動を風刺して書いたのだが、これは現代政治の現実にもぴったり当てはまる。「英国内にBrexitをいかに行うかについて合意がない以上、停滞を打破することは不可能だ」。彼なら今日こう言っただろう。

③ ダウンシフターとプランクトン

寓話「トンボと蟻」のあらすじ――。

 勤勉な蟻が休む間もなく自分の家を建てている間、軽薄なトンボは夏中遊び暮らしていた。冬になってトンボは、自分に住む家も生活する蓄えもないことに気がつき、蟻に助けてくれと頼んだ。だが蟻は、厳しくこう答えた。前にちゃんと働かなきゃならなかったんだ。この先も遊び暮らすがいいさ、と。

 クルィロフは、現代のダウンシフターについてどう思ったろうか。彼らは、ロシアの自分のアパートを賃貸に出し、自分自身は、例えばタイで、人生の最も生産的であるべき歳月を空しく過ごしている。暖かい南国の太陽を浴びてご満悦で、寒~いモスクワの勤め人たちをせせら笑う。

 しかしダウンシフターたちはその間に、職業上のスキルや現実世界とのつながりを失いかねない。しかもいずれはモスクワの冬に戻らねばならないのに、もう前のような仕事はできないのだ。 

④ ブロガーとヘイター

寓話「象と狆」の筋は――

 小さな狆が激しく象に向かって吠えたてたが、象は全然気にしなかった。なぜ狆がそんなに吠えまくるのか、みな不思議がったが、それこそが犬の目当てだった。つまり、象に敢えて吠えるということはそれだけ強いのだと、みなに思わせることが。それに吠えたって、どうせ狆には何も危ないことはないのだから。

 今日もしクルィロフが生きていれば、インターネットで誹謗中傷を繰り広げるヘイターたちを笑ったことだろう。彼らは、モニターのこちら側の安全な場所に身を置いて、ソーシャルネットワークで、否定的な、さらには粗暴な“コメント”をまき散らしている。 

⑤ インフォビジネス

寓話「カルテット」の筋は――。

 猿、驢馬、山羊、熊が、いろんな楽器でカルテットを演奏することにした。しかしきれいな音楽にはならない。彼らは果てしなく位置や場所を変えて、演奏し続けた。そうすれば、音楽が良くなると考えて。ついに、名歌手の鶯が飛んできて、そもそも必要なのは才能と技術だ、と彼らに言った。

 現代の軽薄なビジネスパーソンたちは、1つか2つのセミナーを受講すれば、有利なビジネスができるという触れ込みで、受講をすすめる。彼らはこう請け合う。ビジネスで成功するには、経済学の教養もビジネス指標の理解も法的知識も要らないと。

 彼らいわく、魔法のようなセミナーを傾聴し、自己啓発のトレーニングを受ければ、それで充分である…。2019年にクルィロフが居合わせれば、そういう甘言に引っかかるクライアントを嘲笑しただろう。

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