ロシア文学のユニークな傑作10選:人生にはこんなこともあるさ

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 このリストには、レフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』も、フョードル・ドストエフスキーの『罪と罰』も入っていない。が、人生の様々な局面であなたを助けてくれる傑作がある。

1. 苦しい別離に耐える――イワン・ブーニン『暗い並木道』

 ロシア文学には露骨な性描写はほとんど見当たらないが、この短編集は濃密なエロスに満たされている。それぞれの短編で、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』に神秘性を加えたような映画を撮れるだろう。

 敢えてすべてを語らぬ、象徴的で簡潔なこれらの作品を読んでいると、読者自身も新しいロマンスを夢見るにちがいない。そして、束の間の出会いと別れを恐れず、人生からすべてを受け取ろうという気になるだろう!

 ちなみに、イワン・ブーニンは、主なライバルだったマクシム・ゴーリキーを退けて、ロシア人作家として初めてノーベル文学賞を受賞した人だ。

2. 自分の人生がすべて無意味だったと悟ったら?――レフ・トルストイ『イワン・イリッチの死』

 この中編では、不治の病にかかった中年男の緩やかな死の過程を、微に入り細を穿ち描いている。主人公は裁判官で、ふつうの意味での成功者であり、人好きのする陽気な男だが、人生の精神面とは向き合ってこなかった。

 ところが彼は、いきなり死と直面することで、あらゆる欺瞞、偽善に目を開かれ、今までの人生が無意味であったことに愕然とする。死の恐怖とそれが確 実に近づいてくるさまが凄まじい迫真力で描かれる。

 作家ウラジーミル・ナボコフは、この中編こそがトルストイの最も完璧な作品であると考えた。

3. 居ながらにして波乱万丈の冒険を味わう――アレクサンドル・プーシキン『大尉の娘』

 この本からこんな道徳的結論を引き出すことができる。善いことは無駄に過ぎ去らず、何倍にもなって返ってくる、と。

 あるとき、主人公ピョートル・グリニョフは、吹雪の中で、見知らぬ人に暖かい毛皮外套を与えた。間抜けな行為に思えたが、結局のところ彼の命を救ったのはこのことだった。

 ネタバレは避けたいが、次のことだけは付け加えておこう。これは、数奇な愛、名誉、義務についての物語で、極めて面白い歴史上の時代を舞台にしている。すなわち、コサックのアタマン、エメリヤン・プガチョフが皇帝ピョートル3世を僭称し、大農民反乱を起こした18世紀後半。女帝エカテリーナ2世の治世だ。

4. 連ドラに飽きたら――ミハイル・ショーロホフ『静かなドン』

 1917年に10月革命が起き、次いで内戦が始まると、ドン・コサックの村の生活はすべてが変わり、文字通りひっくり返る。全4巻の構成の大長編は、読者に手に汗握る体験を約束する。いかに夫が妻のもとを去り、また帰って来たか、兄弟が殺し合おうとするか、赤軍と白軍の間でいかに人々が動揺し、あれを裏切り、これを裏切りという修羅になるか。

 ショーロホフもノーベル賞作家(1965年)だ。しかし、『静かなドン』の真の作者をめぐる論争は、発表当時から今日にいたるまで続いている。

 この大作は1925年、作者がまだ弱冠20歳のときに書き始められているが(完結は15年後)、この若さでこれほどの傑作を書くのは不可能だと言う人もいる。また、何人かの専門家は、この小説は、実は、コサックで白軍の将校であったフョードル・クリュコフが最初の草稿を書き、それをショーロホフが利用したと主張する。専門家による「真贋」をめぐる鑑定も行われたが、議論は止んでいない。

5. 海水浴に持っていこう――ミハイル・レールモントフ『現代の英雄』

 この作品には、海と山と愛と運命、そしてもちろん、魅力的なストーリーがある。グリゴリー・ペチョーリンはまだ若いが、もう人生で多くのことを見飽きてきた。上流社会の偽善的な約束事にはうんざりだし、女たちにも幻滅している。彼の魂はもうすっかり冷めてしまって、心がときめくことなどないようだ。ちょっとばかり気分を盛り上げるために、戦争に出かけたり、山岳民の公爵令嬢をさらって、血の復讐を受ける危険に身をさらしたり、密輸業者の深夜の仕事に巻き込まれたり、かと思うと、退屈のあまり、貴族の令嬢と情事を始めたり、という具合だ。19世紀の正真正銘のモンスターチルドレン(恐るべき子供)だ!

6. 腹の底から笑う――セルゲイ・ドヴラートフ『サンクチュアリ』

 離婚した男性が仕事を探している。彼は、詩人アレクサンドル・プーシキンの博物館で、ガイドとして働き始める。プスコフ州ミハイロフスコエの田舎だ。そこの職員のほとんどが女性で、新しくやって来た男の気を引こうとする。主人公の溌溂としたジョーク(ソ連時代に考え出されたにもかかわらず)と、それと分かるカリカチュアで、間違いなく笑える。

7. あなたはまだ万事休したわけではない――マクシム・ゴーリキー『どん底』

 民衆出身のプロレタリア作家、マクシム・ゴーリキーは、浮浪児や乞食など、社会の底辺に呻吟する人々をソ連文学に持ち込んだ最初の作家の一人だった。この戯曲には、そうした人々の木賃宿での暮らしが描かれている。各人が一風変わった経歴をもち、社会の底辺に沈み込んでいる。

 ちなみに、この戯曲は今でもロシアとヨーロッパの劇場で上演され続けており、目覚ましい成功を収めている。 

8. 古いがらくたと別れられない人に――アントン・チェーホフ『桜の園』

 女地主ラネーフスカヤは、地所を売り払うが、桜の園が伐採されることを知る。彼女は悲しみ嘆き、この庭園がなくては人生が無意味になると思い込んでいる。

 しかし、問題は庭ではない。実は彼女は、生活の変化に対する覚悟ができておらず、すでに永遠に過ぎ去った過去にしゃにむにしがみついている。

 伝説的なチェーホフの戯曲にインスパイアされてあなたも、人生を変えるか、少なくともクローゼットの中身を変えてみてはどうだろうか。 

9. スリルを味わう――ニコライ・ゴーゴリの『ディカーニカ近郊夜話』と『ミルゴロド』

 これらの連作集では、滑稽な話と真のホラーが交替で登場する。『五月の夜(または水死女)』、『魔法のかかった土地』、ヴィイ』などは、深夜は読まないほうがいい。徘徊する死者、邪悪な霊、妖怪変化などが登場するから。

 こうした作品を書いたゴーゴリが、ロシア文学史上屈指の名作で、社会性、風刺性をもつ『死せる魂』を著したのは、ちょっと不思議な感じがする。 

10. ストックホルム症候群で恋に落ちる――グゼリ・ヤヒナ『ズレイハは目を開く』

 イスラム教徒のタタール人の村に住む若い女性が主人公だ。彼女は、夫と姑のくびきのもとにある。彼女は、文字通り奴隷のように使役される。ところがソビエト政権が誕生し、夫は殺され、彼女は強制収容所に送られる。そこで彼女は、不思議なことに、収容される前よりも自由に感じ、自分のなかに秘められていた才能を見出していく。そして、看守が彼女に近しい人になる

 この作品は、リストの中で唯一21世紀の作品だ。しかし刊行されるやたちまち20以上の言語に翻訳された。

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