作家ソローキンが描く不確かな未来

 8月7日、現代ロシアの作家、ウラジーミル・ソローキンは62歳の誕生日を祝う。今日最も有名なロシア作家の一人である彼の作品は、想像を絶する事物に満ちた未来世界を描き出している。髪の毛の中のハイテクガジェットのノミ、脳に打ち込まれ、エクスタシーを呼び起こす金属釘、おいしい食事を作るために焼かれる本…。ソローキンの大胆な新世界には、こんなものがまだまだある。
Vladimir Sorokin
ウラジーミル・ソローキン作家=  セルゲイ・ファデイチェフ/タス通信

 現代ロシア作家、ウラジーミル・ソローキンの作家としての経歴は、1980年代にさかのぼるが、最近20年ほどの間、その作品は、衝撃とセンセーションと不可分だった。彼は、様々な文学的スタイルを駆使する名人であり、テキストを徹底的に「解体」することを好み、不条理な“超暴力”のレベルにまで持っていった。虐殺、倒錯、猥褻を描くのが「快楽」だったから、自然、その評判も多少なりともスキャンダラスにならざるを得なかった。

 しかしその後、ソローキンはアプローチを変え、2006年の小説『親衛隊士の日』からは、さほど遠くない未来の、想像上の世界を描くことに集中。最新の小説、『テルリヤ』(2013)、『マナラガ』(2017)は、21世紀後半を舞台とする。

 ソローキンが創る、未来のディストピアの世界地図は、我々の住む世界とはまったく異なっている。ヨーロッパ諸国は、ロシアを含め、より小さな国に分裂し、生活はむしろ野蛮だ。だが、進歩は止まることがなく、この奇妙な世界にはまだ、いくつかの画期的、というかぶっ飛んだテクノロジーがある。

 

『テルリヤ』の釘

 テルル(tellurium)は原子番号52の、実在する元素だが、ソローキンの小説に出てくる、同じ名の金属は、これとは全然違う。ソローキンのテルルは、無限の至福に人を浸らせ、エネルギーと知性、極端な幸福感に導くだけでなく、死者とのコミュニケーションさえ可能にする完璧なドラッグだ。

 ソローキンは、インタビューinterviewの中でテルルについて、「スーパードラッグであると同時にスピリチュアルな道に導くものでもある」と説明した。

 この金属が脳と直接接触するためには、誰かに頭の中に釘を打ち込んでもらう。そうすることで、一定量を注入するわけだ。もちろん、この手術は、熟練の専門家だけに可能である。彼らは「大工」と呼ばれ、ユーラシア周辺を旅しながら大金を稼いでいる。

 テルルそのものも非常に高価で、多くの国で禁止されており、そもそも危険でもある。これを打ち込んだ後、生き残れない確率は12%にものぼる。にもかかわらず、『テルリヤ』の世界では、多くの者が、この貴金属を探し求め、そのスバラシイ効果を享受することを止めない。

 

スーパーガジェット

 スマートフォンやタブレットは、もう忘れよう。将来、もしソローキンが正しいとすれば、人類はずっと面白いガジェットを楽しむことになるのだから。「ウミニタス」(賢いやつ)は、所有者と話をしたり、形や大きさを変えることができる、人工知能を備えたガジェットだ。『テルリヤ』でソローキンは、このガジェットが本、絵、彫刻などの形になるのを描いている。また、ホログラムを使って、世界の反対側にいる人間を見るだけでなく、物理的に触れながらコミュニケーションすることも可能。

 『マナラガ』では、ソローキンは、さらに進歩的なガジェット、ノミについて語る。これらは、極小のハイテク・インプラントで、人間の髪の毛や脳の中に入れることで、世界のすべての情報にアクセスできる。

 「私のノミのおかげで、12の言語で読むことができる。どんな科学のレクチャーだって読める」と『マナラガ』の主人公は自慢する。ところが、敵が彼を誘拐し、手術で彼のノミを取り除いてしまうと、彼は自分自身が完全に無力だと感じる。人々がガジェットに非常に依存している今日の世界では、これは現実からそう遠くないようだ。

 

未来の焚書は…

 『マナラガ』の主人公についてさらに言うと、彼の仕事は何とも奇妙なものだ。彼はお金を稼ぐために本を燃やす。ソローキンによれば、将来、紙の本はほぼ完全に消え、デジタルで置き換えられてしまい、国の保護下にある美術館に、数部が保存されるだけだ。

 しかし、禁断の果実こそ最も甘いもの。未来の黄金狂たちは、これらの稀覯本を盗み、その紙を燃料に使って料理する。これが、金持ちのための非常にエキゾチックで高価な娯楽とみなされているのだ。こういうパフォーマンスは「ブック・アンド・グリル」と呼ばれ、食事をする人にとっては、どんな本で調理されているかが非常に重要。安い探偵小説では美味いステーキには合わない。トルストイの小説のような類のものが望ましい。

 ソローキンは、このメタファーで、本の将来について深く考えてみたかったという。「人類は、印刷された本と完全に絶縁するわけではない、と私は信じている。 それは、私たちの世界の一部であり、完全に破壊することはできない」と彼はインタビューで語った。

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