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ほぼすべての部門で、若手音楽家のソロコンサートのシリーズからなる、感動的な音楽対決が続いた。3週間の開催期間、モスクワとサンクトペテルブルクの舞台には、ロマンチスト、ヴィルトゥオーゾ、“思想家”など、さまざまな個性の人があがった。
従来通り、特別な感情を呼び起こしたのは、音楽院大ホールのピアニストの演奏であったが、スタートは意表をつくものだった。過去に受賞歴があり、有力候補だったアレクサンドル・ルビャンツェフさんは、今年の生演奏選抜を通過することができなかったし、第1ラウンドの後、ベートーヴェンのピアノソナタ32番を演奏してオンライン生中継で記録的な視聴数を集めたアンドレイ・コロベイニコフさんも審査員にふるい落とされた。ユーリ・ファヴォリンさんやドミトリー・シシキンさんなどの鮮明な音楽家もラウンドの合間に消えていったが、それでもピアノ部門の競争は激しいままだった。むしろ、このような落選者の質が、競争のレベルの高さを証明したと言える。
バイオリン部門とチェロ部門でも同様だった。理由を説明するのであれば、第1ラウンドのレベルを引き上げることとなった生演奏選抜の導入や、新世代音楽家が際立った鮮明な特徴をもっていたことを挙げることができる。その際、出場者の詳細情報が示している通り、新世代はロシア派の伝統と深くかかわりを持っている。チャイコフスキー国際コンクールはもはやモスクワ音楽院の卒業生のパレードではなくなっているが、今大会の輝かしい出場者の多くは、異なる段階でロシアの教育者の指導を受けている。ピアノ部門の決勝に残った全員もそうである。アメリカのジョージ・リーさんはマクシム・モギレフスキー氏に、フランスのリュカ・デバルグさんはレナ・シェレシェフスカヤ氏に師事していた。
決勝は全員にとって大きな試練であった。緊迫していたピアノ部門では”ランキング”が激しく動いた。劇的な決勝は、メランコリックな叙情詩人セルゲイ・レチキンさん、驚きの名人ジョージ・リーさん、音楽的思考の深さと美しさで聴衆を感動させたリュカ・デバルグさん、質の高いピアニズムのルカス・ゲニュシャスさん、若さと純粋かつ明確な解釈で魅了するダニイル・ハリトノフさん、ピアノの魔術師ドミトリー・マスレエフさんの決闘だったと言える。
今大会は甲乙つけがたい争いばかりであった。
センセーションはやはりあった。デバルグさんが聴衆に贈った音楽的感動は大会の「レジェンド」になった。モスクワ音楽評論家協会がモスクワ音楽堂での12月のコンサートの機会を与えたのは、「その今大会での演奏が著しい芸術的現象となり、その比類なき才能、創作的な自由さ、音楽的解釈の美しさが観客と評論家に忘れられない印象を与えた」デバルグさんである。
このような言葉が贈られる音楽家がいて、大きな発見となった音楽家がいたからこそ、今大会は成功したのである。
第15回チャイコフスキー国際コンクールには、世界の注目が集まった。フランスの「メディシス」チャンネルが行ったインターネット中継を、179ヶ国1000万人以上が視聴した。統計によると、全大陸1万0352市町村の視聴者である。これは音楽コンクールとしては記録的だ。
次に入賞者を待ちうけているのは“芸術的運命”である。チャイコフスキー国際コンクール自体が、入賞者のキャリアアップにとりくむ。「次の3~4年で若手音楽家がロシア全土、ヨーロッパ、アジア、アメリカの最高のコンサートホールで演奏できるよう、我々は可能なことをすべて行う。我々はこれを約束し、遂行する」とコンクール組織委員会の共同委員長である、世界的な指揮者のワレリー・ゲルギエフ氏が述べた。
ピアノ部門:1位:ドミトリー・マスレエフさん(ロシア)、2位:ルカス・ゲニュシャスさん(ロシア/リトアニア)、ジョージ・リーさん(アメリカ)、3位:ダニイル・ハリトノフさん(ロシア)、セルゲイ・レチキンさん(ロシア)、4位:リュカ・デバルグさん(フランス)
バイオリン部門:1位:該当者なし、2位:曽宇謙さん(台湾)、3位:ガイク・カザリャンさん(ロシア)、アレクサンドラ・コヌノワさん(モルドバ)、パーヴェル・ミリュコフさん(ロシア)、4位:キム・ボムソリさん(韓国)、クララジュミ・カンさん(ドイツ)
チェロ部門:1位:アンドレイ・イオヌト・イオニツァさん(ルーマニア)、2位:アレクサンドル・ラムさん(ロシア)、3位:アレクサンドル・ブズロフさん(ロシア)、4位:パブロ・フェルナンデスさん(スペイン)、5位:スン・ミン・カンさん(韓国)、6位:ヨナタン・ローゼマンさん(オランダ)
独唱部門:女子:1位:ユリヤ・マトチキナさん(ロシア)、2位:スヴェトラーナ・モスカレンコさん(ロシア)、3位:マネ・ガロヤンさん(アルメニア)、4位:アントニナ・ヴェセニナさん(ロシア):男子:1位:アリウンバートル・ガンバートルさん(モンゴル)、2位:王傳越さん(中国)、3位:ユー・ハンスンさん(韓国)、4位:ドミトリー・グリゴリエフさん(ロシア)
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