タス通信
最後となったメッセージ
この「ディーヴァ」の最後のコンサートは、発表済みのものとしては、昨年12月11日に行われるはずだったが、彼女は出演することができなかった。またクレムリン宮殿で催される予定だった大規模な記念コンサートも取り止めになった。
自身が創設したオブラスツォワ基金のサイトで、彼女は仲間のアーティストやファンに対し、次のようなメッセージを記していた。「私の友人、アーティスト、ファンの方々のご配慮に対し、深く感謝しています。これはユニークな祝祭の夕べとなり、インスピレーション、歓喜に溢れ、芸術の輝きを堪能できるはずだったのですが…。でも、すべてはこれからです。私の健康が回復すると信じています。そして、再び舞台に立てれば、幸せです」
世界のひのき舞台への道
ロシアのメゾソプラノ、エレーナ・オブラスツォワは、1939年7月7日、レニングラード(現サンクトペテルブルク)で生まれた。音楽教育を受け始めたのは、1957年、ロシア南部のロストフ・ナ・ドヌ市でのことで、いきなりロストフ音楽学校の2年生に入学を許された。
その後、レニングラード音楽院に移り、1964年に卒業。まだ在学中だった1962年に二つのコンクールで優勝している――ヘルシンキ開催の世界青年学生祭典と、モスクワ開催のミハイル・グリンカ記念全ソ歌手コンクールだ。
そして彼女は、オペラとバレエの殿堂、ボリショイ劇場に招かれる。同劇場でのデビューは、ムソルグスキーのオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」のマリーナ・ムニーシェク役でだった。ボリショイでの最初の年に彼女は8つの役を歌ったが、そのなかには、ヴェルディの「アイーダ」のアムネリスが含まれていた。
厖大なレパートリー
ロシアで最初にオベロン(ベンジャミン・ブリテン「真夏の夜の夢」)とユディット(ベーラ・バルトーク「青ひげ公の城」)を歌ったのも彼女である。このほか、彼女のレパートリーとしては、ブイヨン公爵夫人(チレア「アドリアーナ・ルクヴルール」)、アダルジーザ(ベッリーニ「ノルマ」)、ジョヴァンナ・セイモー(ドニゼッティ「アンナ・ボレーナ」)、オルフェオ(グルック「オルフェオとエウリディーチェ」)、リュバーシャ(リムスキー・コルサコフ「皇帝の花嫁」)、マルファ(ムソルグスキー「ホヴァーンシチナ」)、カルメン(ビゼーの同名のオペラ)などがある。
1975年にはスペインで彼女のカルメンが世界最高と評価された。また、1986年には、舞台監督としてボリショイ劇場で、マスネのオペラ「ウェルテル」を上演している。
コンサートでのレパートリーは厖大で、18~20世紀の100人以上の作曲家による作品におよび、様式もジャンルも多種多様だった(オペラ、室内楽、カンタータ、オラトリオ、教会音楽、ロシアの歌、古いロマンス、オペレッタの古典的作品、軽い性格の劇中歌、ジャズ・スタンダードなど)。
1975年にはスペインでエレーナ・オブラスツォワのカルメンが世界最高と評価された。=タス通信
なかでもしばしば彼女が歌ったのは、ゲオルギー・スヴィリードフの作品だ。彼は、歌曲集「アレクサンドル・ブロークの詩による9つの歌」を彼女に献呈し、また彼女のために、当初バリトン用に作曲された、セルゲイ・エセーニンの詩による「とも綱を解くロシア」を書き直して、新バージョンを作っている。
オブラスツォワは世界各地の一流のオペラハウスに出演している。マルセイユ・オペラハウス、バルセロナのリセウ大劇場、ウィーン国立歌劇場、サンフランシスコ歌劇場、ミラノ・スカラ座、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場、ワシントン・ナショナル・オペラ、ロンドンのコヴェントガーデン(ロイヤル・オペラ・ハウス)、ブエノス・アイレスのテアトロ・コロン等々。
このプリマと共演した歌手は、ジョーン・サザーランド(ソプラノ)、モンセラット・カバリエ(ソプラノ)、レナータ・スコット(同)、ミレッラ・フレーニ(同)、プラシド・ドミンゴ(テノール)、ルチアーノ・パヴァロッティ(同)、ホセ・カレーラス(同)など多数。
教育慈善活動
オブラスツォワは教育活動にも携わっており、1973~1994年には、モスクワ音楽院で教鞭をとった(1984年から教授) 。
1996年からは、彼女が創設したオブラスツォワ文化センターが活動を開始し、若いオペラ歌手の国際コンクールを行っている。2011年12月には、エレーナ・オブラスツォワ基金を設立。これは音楽芸術を支援する慈善基金で、その主な目的は、教育プロジェクトと国際音楽アカデミーの創設だ。
2013年12月、オブラスツォワは、音楽活動50周年を祝い、ボリショイ劇場でコンサート「ブラヴォー、エレーナ!」を行った。生前最後となったコンサートは、同劇場で昨年10月28日に開かれた。彼女のために催された、このガラコンサート「オペラの舞踏会」には、アンナ・ネトレプコ、マリア・グレギナ、ディミトリー・フヴォロストフスキー、ホセ・クーラなどが出演。「ヒロイン」のオブラスツォワ自身は、この愛するステージで、チャイコフスキー「スペードの女王」の伯爵夫人に扮し、輝いていた…。
*ロシア通信の資料を参照。
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