ロシアの暗黒郷の傑作選

Shutter Stock/Legion Media撮影

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あなたがディストピア小説のファンなら、ロシアの作家が描く未来の世界の陰鬱なビジョンを大いに気に入っていただけるだろう。

 一つのグローバル危機から次の危機へとこの世界が翻弄される中で、人々は次に何が待ち受けているのかということに、これまでになく関心をもつようになっている。それを反映してか、ソビエト連邦崩壊以来最も傑出したディストピア小説作品も創作されるようになった。『ハンガー・ゲーム』3部作の最終作で、映画化された『マネシカケスの少女』が収めた成功を見れば、ディストピアが現在どれだけ全盛を極めたジャンルになっているかが明白であろう。

 北朝鮮は20世紀的全体主義の最後の前哨の一つになっているが、ディストピア小説は衰えることをまったく知らない。世界的流行病の危険性からテロリストによる核兵器入手に至るまで、人類が恐れるべきことはいくらでもある。自然は世界的な工業化の到来がもたらした脅威に晒され、テクノロジーにより、私たちの政府が私たちをスパイすることはこれまでになく容易になっている。これから50年後、否、20年後に、私たちはどこにいるだろうか? 

 歴史的に、ユートピア/ディストピアのジャンルは、ロシア文学ではあまり例となる作品がなかった。例としてはチェルヌイシェフスキーの『何を為すべきか』という作品がある。ザミャーチンの『われら』、ストルガツキー兄弟の作品、そしてプラトーノフの作品もあるが、せいぜいその程度だ。しかし、ソ連が崩壊し、国家による検閲がなくなってこのジャンルが頭角を現したことにより、何もかもが変わった。多くの優れた作品は翻訳ですでに出回っており、ディストピアのファンにとっては必読となっていた。

 

1)『メトロ2033』ドミトリー・グルホフスキー 

 グルホフスキーによる世界滅亡後を題材としたこのデビュー小説は、2007年にロシアで発売されて以来ベストセラーとなっており、大人気のコンピュータゲームとして製品化されたほどだった。その続編となる『メトロ2034』も、同じく成功を収めた。『メトロ・ユニバース』は核戦争後の地球に設定されており、残された生存者たちが地下のトンネルでこっそりと生活しているという筋書きである。その最大のものがモスクワ地下鉄で、そこではそれぞれの駅が小さな国家のように機能し、暗いトンネルの中では無秩序が君臨する。

 

2)『うさぎと大蛇』ファジリ・イスカンデル 

 アブハジアの作家ファジリ・イスカンデルはソ連文学とロシア文学の現代古典的作品を執筆し、比類のないユーモアと風刺で知られている。彼の中編小説『うさぎと大蛇』はロシア国家を題材にしたおとぎ話のような寓話で、登場人物にはウサギ、大蛇とアナコンダという悪者たちがいる。この寓話は、官僚と従順な市民をもつ独裁制度の心理と構造を分析しているが、その中であるウサギは、「彼らの催眠状態は我らの恐怖」であることを悟る。この本は、ジョージ・オーウェル作『動物農場』のロシア版のいとこ的存在といえよう。

 

3)『非常口』ウラジーミル・マカーニン 

 ウラジーミル・マカーニン作の『非常口』は、2つの世界を並置する中編小説だ。1つ目の世界は知識階級の不安定な避難場所となっている地下壕だ。もう一方の残りの世界は、戦争や紛争によって荒廃した地上の都市である。これらの間をつなぐ唯一の接続点が非常口なのだ。この本は「砂の中に頭を埋める」というイディオムを思い出させる。世界に背を向けて隠れると、最終的には引き返すことができなくなってしまう。だんだんと細くなる逃げ道は、急激に変化する環境に適応することができない美しい動物の、悲痛な絶滅を表す隠喩である。

 

 4)『親衛隊士の日』ウラジーミル・ソローキン 

 ディストピアと言ったらソローキンが話に出てこないはずがない。彼は現代ロシア文学の大物で、このジャンルで10年以上作品を執筆してきた人だ。『親衛隊士の日』は、ロシアがイヴァン雷帝のような狂った軍事独裁政権と化した2027年を描いたもので、市民はオプリーチニキ(中世の秘密警察ともいえる親衛隊士)の脅迫的支配下に置かれている。この政治風刺は、古ロシア語を模倣する様式化された散文が効果的な特徴となっており、本の中に見受けられる数多くの歴史的類似点は、ロシアの中核は実際には何も変わっておらず、国民に対する態度はまったく同じであるという事実を強調している。 

 この小説には『砂糖のクレムリン』という続編がある。この本はロシアで権威ある賞をいくつも受賞しており、2013年には国際ブッカー賞にノミネートされた。

 

5)『クィシ』タチヤーナ・トルスタヤ 

 トルスタヤは現在活躍する作家の巨匠的存在で、ロシア語における金字塔的な標準を確立している。彼女は、核戦争による世界終末後で、ほとんどの技術、文化や言語が完全に消え去った世界を描いている。核戦争後のロシアでは、村人が動物のように生活している。人々には角や尾が生えており、彼らは見た目も動物の様相を呈している。中でも最も恐ろしいのは森林に生息する怪物で、未知に対する恐怖を象徴している。 

 核爆発後に発見された数少ない本は人々から取り上げられ、ベネディクトという主人公が働く本の貯蔵庫に収蔵されている。彼は児童文学から専門的な技術指導書に至るまでランダムに読み、保存するために手書きでそれらを写す。本をたくさん読んでいるからといって彼がその内容を理解しているとは限らない。ベネディクトは本に没頭しているにもかかわらず、周囲の世界をしっかりと見据えられるほど自分の教養レベルを高めることができていない。彼の生活は依然として穴居人と同様なのだ。したがって、あらゆる情報へのアクセスを掌握している支配層の人たちは、必ずしも私たちの文化を保存しているとは限らない。

 

6)『寝台特急 黄色い矢』ヴィクトル・ペレーヴィン 

 ペレーヴィンはロシアのポストモダン文学におけるもう一人の巨匠で、ディストピア的な作品を2作書いている。『黄色の矢』は鉄道をテーマにした寓話の中編小説だ。ロシアを象徴する列車はあらゆる人物を包含する全世界を網羅していくが、それは崩壊した橋に向かっている。ロシアが平穏の期間を経験することがあったとすれば、それらはただ、津波が到来する前に心配事が一時的に消え去った引き潮状態にすぎないのである。

 

*ディストピアについてはwww.ryzhakov.co.uk/blog/でより詳しく読むことができる

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