デニス・ルシーノフ撮影/タス通信
サンクトペテルブルクに所在するエリツィン大統領図書館とロシア国立図書館の両図書館は、ウィキペディアに対抗するロシアの対案となる目標をかかげたプロジェクトに取り組んでいる。大統領図書館の報道官であるワレンチン・シドリン氏によると、その作成者は一から電子百科事典を執筆するのではなく、ロシアの歴史的展開のあらゆる側面を網羅する既存の資料を単に体系化、デジタル化し、オープンアクセスとして提供するのだという。
「こうして私たちは、ウィキペディアに取って代わる百科事典の編纂に着手しました。このリソース[ウィキペディア]を分析した結果、それがロシアの地方やこの国の生活についての情報を信頼のおける詳細な形で提供できていないことが判明しました」と、シドリン氏はロシアNOWの取材に対して語った。
この新たな電子百科事典は、電子図書館の原則に従って構築される。誰もが本の内容を書き換えられるわけではないのと同様に、その百科事典に誰でも変更を加えられるわけではない。「でも、他の出版物や文章でそれを補完することは可能です。私たちは読者やその他の人々と協力して、私たちに新たな資料を提供してくれる方々と積極的に協働していきます」と、大統領図書館の主任報道官は述べた。
ウィキペディアに対抗するのか、それとも単なる百科事典に終わるのか
ロシアに関する将来的な情報のリソースは、ウィキペディアのそれとは根本的に異なるが、ロシアのメディアはこれを「ウィキペディアに取って代わるもの」と謳っている。それは主に、このプロジェクトの立案者の一人であるロシア国立図書館のアントン・リホマノフ館長の発言によるものだ。
2014年4月に、「ロシアにおける教育」と称する社会教育に関するフォーラムでこのアイデアを提唱した際に、リホマノフ氏は次のように述べた。「ロシア語版のウィキペディアでは、毎時間およそ100万件のクエリがなされている。しかし、このリソースには多数の誤った記述が含まれており、それらを修正することは事実上不可能だ」
「ウィキペディアは米国から管理されており、VisaとMasterCardの決済システムで発生したのと同じような状況に我々が直面する可能性は、いつでもありうる」とリホマノフ氏は加え、西側諸国による対ロシアの制裁により、ロシアからの世界最大の電子百科事典へのアクセスが制限される可能性について示唆した。
この新たなリソースの意図はウィキペディアを“置き換える”ことにあるとロシア国立図書館の館長は繰り返し強調しているが、シドーリン氏はロシアNOWに対し、このプロジェクトは巨大な情報源であるウィキペディアと競合しようとしているわけではないことを保証した。「私たちは、ウィキペディアに取って代わろうとしているのではありません。そうではなく、信頼のおける情報源に基づいた百科事典を作成しようとしているのです」と同氏は述べた。
今後の展開は不明
ウィキメディア財団(ロシアでウィキペディアの支援母体となっている非営利団体)のスタニスラフ・コズロフスキー常任理事は、制裁措置によってロシア語版のウィキペディアに影響が及ぶという脅威は常識に反すると主張した。「ウィキペディアは自由なライセンスの下で、100万人以上のロシア人によって作成されています。確かにサーバーは、米国のほか、ヨーロッパや東南アジアに所在しています。ロシアにはサーバーはありません。しかし、ウィキペディアは決して米国政府によってコントロールされているわけではありません。ウィキペディアのこれまでの歴史を通じて、米国政府当局がその百科事典へのアクセスを制限しようと試みたことは一度たりともありません」とコズロフスキー氏は述べた。
コズロフスキー氏によると、ロシアを含む数カ国がウィキペディアに影響力を行使しようとしているという。「7つの全く当たり障りのないウィキペディアの記事が、ロシアによる禁止ウェブサイトの登録簿に加えられました。電子百科事典へのアクセスを封鎖することができる組織があるとしたら、それは米国国務省ではなく、マスコミ監督庁(正式名はマスメディアとコミュニケーションのためのロシア連邦監視サービス省)でしょう」と彼は語った。
コズロフスキー氏は、ウィキペディアに確かに間違いがあることは認めたが、同時に世界中で4500万人が常時記載内容に変更を加えており、それらの間違いを修正していると付け加えた。
ロシアオンライン出版協会のウラジミール・ハリトーノフ理事長は、ウィキメディア財団の同僚と同調した。「ウィキペディアに含まれている間違いのレベルは、ブリタニカ百科事典のそれと同程度のものです。ロシアに関する電子百科事典の作成者がわざわざ車輪を再発明する必要はなかったでしょう。彼らがロシア語版のウィキペディアを向上させるために自らリソースを提出した方が、ずっと効果的だったはずです」と同氏は述べた。
モスクワ国立大学のジャーナリズム学部でニューメディア学科を率いるイヴァン・ザスルスキー氏が持つ今後の百科事典に関する見解は、さらに断言的なものだった。彼は、それが実現するかどうかに対してさえ懐疑的だ。
「”代替のウィキペディア”を作成しようとする試みには、決まって知識とその普及の管理という問題がつきものです。それは、新しい百科事典が客観的なものであるかどうかという問題でさえありません。問題は単に、この百科事典が日の目を見ずに終わってしまうという可能性なのです。私は、このプロジェクトは資金獲得目当てであると確信しています」とザスルスキー氏は語った。
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