ボリショイの中継は仏企業を“中継”

ロイター通信

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10月26日、数十万人のバレエファンが、生中継プロジェクトのおかげで、ボリショイ劇場のバレエ「愛の伝説」の初演を、映画館で目にすることになる。ロシアのバレエとオペラの殿堂が、このプロジェクトに参加し始めてから6シーズン目だ。ところが、ロシアの映画館が放映権を得るには、ロシアのクール・コネクション社に金を払い、同社はフランスのパテ・ライブ社に収益の一定の割合を収め、さらに仏企業はボリショイにその金の一部を還付する。なぜこんなに金の流れが入り組んでいるのだろうか。

メトの中継開始で人気に 

 舞台の中継に人気が出たのは、2006年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場が、パテ・ライブ社の組織・運営による中継開始を発表して以来のこと。劇場に行けなかったファンや、好きなアーティストを遠距離からではなく間近からアップで眺めたい人が、映画館に足を運んだ。 

 2009年に同社はボリショイ劇場とも契約を締結。もっとも、中継するのはバレエのみだったが。これは、世界でこの劇場のオペラよりもバレエのブランドのほうが受けがいいからかもしれない。またオペラのみを中継するメトロポリタンとの競合を避けた面もあるだろう。

 

プロジェクト実現の難しさ 

  2009年以来、世界の多くの国で、ボリショイのバレエの舞台が中継されてきたが、最初の3年間は、ロシア国内での中継はなかった。ロシアの映画館がプロジェクトに参加し始めたのはようやく2012年のことで、デストリビュータになったのがモスクワのクール・コネクションCoolConnections社。

 「期待感はすごく高かった。我々が中継している劇場のなかでボリショイの認知度は最高で、中継開始を待っている人が一番多かったから」。こう当時を振り返るのは、クール・コネクションのナデジダ・コートワ社長。

 ところが、各地の映画館との話し合いは難航した。生中継を受信するには、総額約1万ユーロ(約140万円)のパラボラアンテナとデコーダーが必要なのが足を引っ張り、結局、2012年のボリショイ中継開始は、5館のみでのスタートとなった。

 「固定客層ができるまではもう少し時間がかかる。そういう人が確かに潜在していることを我々は知っているが、プロジェクトを認知させるのはそう簡単ではない。各地の印刷物や路上に広告を出す資金は我々にはないし、テレビのCMもない。我々が提携を持ちかけたテレビ局はどこも支持してくれなかった」。コートワ社長はこう嘆く。

 

フランスの影 

 今では、ボリショイの中継は、世界の約1000の映画館で行われているが、ロシアでは46館だけだ。

 フランスのパテ・ライブ社が一回の中継を行うのにかかる費用は約40万ユーロ(約5600億円)。「ロシアの劇場の中継を行う映画館の数は次第に増えてはいるものの、欧州各国のような数は、ロシアでは集まらない。第一に、高価な機材が必要だし、第二に、中継の許可をフランスのパテ・ライブ社から取らねばならない。この会社が我々とともにこのプロジェクトの立ち上げた結果、こういう二階構造になってしまった」。ボリショイ劇場のアントン・ゲチマン副支配人は経緯を説明する。

 ビデオ製作の分野でも似たような状況だ。ボリショイから伸びるすべての道はパリに通じる。ボリショイのビデオ撮影を行い、そのコピーライトを所有しているのは、2002年以来、ベル・エア・クラシック(Bel Air Classiques)社。同社がビデオのコンテンツをパテ・ライブ社に売り、後者がそれを全世界に中継する。

 ベル・エアは、ボリショイの舞台映像を収めたディスク数十枚をリリースしてきており、それらは、2012年に至るまでロシア国内で販売できなかった。なるほど、クラシック音楽とオペラハウスの撮影にかけてはフランスは世界的に権威があり、その質に関しては、ボリショイも他の劇場も文句がないのは事実だが…。

 

悪循環 

 「ロシアの録音技術は伝統的にハイレベルだ。中継用の音声を世界に通用する水準で録音することはできる。ロシアが欧米に劣るのは映像の撮影。ベル・エアにはヴァンサン・バタイオンという、クラシック音楽撮影にかけては世界最高と目されるエンジニアがいる」。こう話すのは、チャイコフスキー国際コンクールとミハイロフスキー劇場の舞台を中継しているパラクラシックス(Paraclassics)社のアントン・ゴプカ社長。

 こうして悪循環が出来上がる。ロシアの一流劇場は、国内の弱小企業と提携したがらない。実際これらの会社は、大々的な宣伝を行うのが難しいし、劇場側からの要請がなければトップクラスの撮影、音声のエンジニアを招くのも困難だ。

 とはいえ、すべての劇場がこんな状況に甘んじているわけではない。サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場のワレリー・ゲルギエフ芸術監督は、独自の解決策を提案している。2009年に同氏は、ラベル・マリインスキー(Mariinsky label)を立ち上げ、今までに6枚のDVDをリリースしている。

 もっとも、撮影の内幕は同じようなものだ。マリインスキーのコンサート、舞台を撮っているのは、やはりフランス人、オーストリア人などで、オリヴィエ・シモネ、ブライアン・ラルジュといった一流どころが含まれている。

 だが、それでも見た目は違う。サンクト発の芸術がマリインスキーのブランドで世界に発信されるから、あたかもロシアに、ビデオ製作企業があるかのような印象を与える。

 この「ブランド愛国主義」は、マリインスキーの舞台の多くを無料で中継するインターネットテレビとラジオを創設するようにゲルギエフ氏を駆り立てた。ボリショイはといえば、YouTubeのプラットホームのほうを好んでいる。

 自分の「ラベル」を所有する利点はもう一つあり、マリインスキーは何をいつ録音、中継するか自分たちで決めている。

 

記事全文(露語)