ヤロスラヴリ市の市章 / Lori/Legion Media 撮影
イヴァン雷帝の動物寓話
市章がロシアに登場したのはピョートル大帝の時代と、比較的遅い。それまでは印が市章の役割を果たしていた。ロシアの国璽(こくじ)が最初に登場したのは、モスクワ大公イヴァン3世の時代。双頭のワシの絵のついた印をつくった。1570年にはワシが王冠をかぶったイヴァン雷帝の印があらわれた。印にはモスクワ国に含まれる公国、領、市の紋章26章を見ることができる。
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紋章の多くは動物、鳥、魚。それ以外には弓、剣、サーベルなどの武器がある。紋章の多くに領土コードはなく、宮廷の聖像画家の空想が描かれていた。ニジニ・ノヴゴロドはトナカイ、プスコフはユキヒョウ(またはヤマネコ)、カザンはバシリスク、トヴェリはクマ、ロストフは鳥、ヤロスラヴリは魚、アストラハンはイヌなどの表象になっていた。
イヴァン雷帝の印の中心には双頭のワシ、一方には聖ゲオルギイが、他方には一角獣(帝政のシンボル)が、描かれている。他の絵は付属的な役割を果たし、場所の識別のためというより、ツァーリの力を示すものであった。
イヴァン雷帝の印は、モスクワがすべて、その周辺に価値はないという一種の未来プログラムとなった。これは印に描かれた領土に独自のシンボルがないという意味ではない。地方には地方の正統性があるが、それがモスクワ国家の中央集権政策に矛盾していたということである。
市章のデザイン始まる
その100年後の1672年、ロシア領の新しい紋章を示した「大皇帝本」が登場。33章が記されている。イヴァン雷帝の印にあった紋章は大きく変化した。大ロストフは鳥をトナカイに、ヤロスラヴリは魚を斧を持ったクマに、リャザンはウマを「徒歩公」に変えた。”リブランディング”は聖像画家の自由な創作である。
ロモノソフはサンクトペテルブルクの衛星都市の一つ。市章にはダイダイの実のついた豊かな木が銀色の盾の中に描かれている。ダイダイはミカン科の果物だが、ロシアの厳しい気候条件とミカンにどのような関係があるのだろうか。1948年までのロモノソフの市名、オラニエンバウムは、ドイツ語でダイダイの木を意味する。ピョートル大帝はこの地に側近のアレクサンドル・メンシコフを遣わせた。メンシコフは自分の夏の邸宅をここにつくり、ヨーロッパから植物学者を招へい。植物学者はたくさんの温室をつくり、ダイダイの木を栽培した。
ピョートル大帝はロシアの紋章を体系化し、ヨーロッパの紋章規定にしたがった紋章の使用を決定。1722年に市章を含めた紋章づくりを貴族系譜紋章局に命じた。創作責任者として、イタリアのフランチェスコ・サンティ伯爵が招かれた。サンティ伯爵は熱心に取り組み、数十章もの紋章をゼロから考案した。地方の役人に調査を行い、街の重要な特徴などを尋ねた。セルプホフの役人は、地元の修道院の一つにクジャクがいることで街が有名だと説明。その後クジャクが市章の中心に収められた。サンティ伯爵は97章からなる紋章の目録を作成した。しかしながらピョートル大帝の次の皇帝エカチェリーナ1世は1727年、伯爵を陰謀の罪でシベリアに送ってしまった。
紋章ブーム
次に紋章ブームが起こったのはエカチェリーナ2世の時代。これは地方統治の改革と関係している。10年間で数百もの市章がつくられた。紋章官が街の歴史をあまり知らなかったことにより、市章の多くにこじつけがあった。このようにしてヴェリーキエ・ルーキ(3本の弓)、スムィ(3つのバッグ)などがあらわれた次第。この時期、さまざまな紋章に関する伝説が生まれた。地元の役人は創作プロセスに夢中になり、紋章発祥に関する話も創作し始めた。コロムナの役人は、中世ローマの貴族コロンナ家の人々によって1147年に市が創設され、市の名前がコロムナになり、紋章に円柱が描かれたというお話を作った。ヤロスラヴリの人は、ヤロスラフ大公が旅の途中でクマを見つけ、随行者とともにクマを殺害したことから、ヤロスラフ大公が斧を持ったクマを考案したと吹聴。
ソ連崩壊後に紋章復活が始まり、多くの市がエカチェリーナ2世時代のブランドに戻った。
写真は18世紀の頃の市章
赤い目をした黒いトラが赤いクロテンをくわえている。トラにはシマ模様がついていない。トラを意味する「チグル」という言葉がロシア語にあらわれたのは最近で、イルクーツクを含むシベリア、極東地域では、このような動物は「ボブル(ビーバー)」と呼ばれていた。1880年代の「ロシア帝国県章・州章」集には、イルクーツク県の県章についてこう記されている。「銀の盾に、口に赤いクロテンをくわえた、赤い目をした走る黒いボブル」。芸術家の誰かがトラにボブルの尾と水かきのある手を追加したが、その後修正された。だが色はトラの色とはなっておらず、不思議なネコ科の動物に仕上がっている。
*市章の写真提供:Lori/Legion Media
*元記事前文(露語)
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