刊行:2014年3月
中村喜和 著
風行社
ロシアをこよなく愛し、ロシア文化研究に半世紀をささげた碩学(せきがく)の新著である。
ロシアの空の下で、濃密な交流を紡いだ無名の日本人とロシア人の秘話が、柔軟な批評精神と綿密な調査で、もつれた糸をほぐすように丁寧に描かれている。
どれも粒ぞろいの名品だが、万里小路(までのこうじ)正秀をめぐる評伝は特に興味深い。万里小路は公家の名家に生まれ、13歳で岩倉使節団に加わり、10年間ロシアに遊学した。ロシア語が抜群にできた。
ロシア人女性との恋愛と破綻、ニコライ神父との交流と離反、大津事件との遭遇、ロシア正教に帰依しつつ宮内省の神職を全うした経歴など、明治日本の懐の深さをうかがわせるエピソードが満載だ。悠然たる大河の趣をもつ逸品である。
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