モスクワで生花インスタレーション

ダリア・コジレワ

ダリア・コジレワ

7月6日。モスクワで草月流華道家・川名哲紀氏によるインスタレーションとデモンストレーションが公開された。

写真提供:ダリア・コジレワ

 本番前日、舞台となる1706年に設立されたモスクワ最古の薬用植物園は緊張感に溢れていた。入り口前の池には板の橋がかけられ、その上に置かれた黒い壷からは、いくつもの細長い竹板が上下左右に、美しい曲線を描きながら、まるで渦を巻くように伸びていた。竹の作るその空間に草花を生ける川名氏の手助けをするのは、今年20周年を迎えるモスクワ建築大学景観設計デザイン高等学校付属草月モスクワ支部の学生と卒業生、およそ10人。

 

“生命の水”のパワーを解放 

 生花デモンストレーションの最終リハーサルが進む橋の向こうには、竹で作られた荒い波の巨大インスタレーションが姿を見せていた。川名氏が今回作成した「精神の波」だ。世界中で活動を広げる川名氏は、ロシアは今回で5回目。これまでサンクト・ペテルブルクの建築家宮殿や、モスクワのトレチャコフ美術館で作品を展示し、同じ薬用植物園でも2005年に「波」を披露したが、それと比べると今回の作品は全く迫力が違う。 

 「これは、五大の一つである水の、表面ではなく、中にある動きをイメージして作った作品です。人々も、精神の強いエネルギーを解放することによって、世界が抱える数々の問題や困難を乗り越えられるのではないかと思います」と、川名氏は説明する。

 このエネルギーは、素材においても重要な役割を果たしている。「精神の波」に使ったグルジア産の竹はなんと400本。「私は竹に尊敬の念をとても感じています。竹でないと、このようなカーブやラインは出ません。竹が持っている一番強いエネルギーを取り出し、竹との対話を作り、作品が出来上がります」と川名氏は言う。

 

「五大と五感がマッチした空間を」 

 「精神の波」のインストレーションは9日間続いた。「雨や雹に降られながら、寒い中、作業を進めました。濡れた竹は非常に滑りやすく大変でしたが、参加者全員の努力の末、素晴らしい作品が出来上がりました。これぞ正に日露共同企画です」と感想を語るのは、主催者の一人である草月支部長のマリナ・アントーヒナ氏。

 「自分で作ったものを自然の中でいかに共存させるかということが、今から必要になってくるのではないでしょうか。私はいつも、現場にある五大と、見る人の五感がマッチした一番パーフェクトな空間を作ろうとしています。これは形よりも大切なことです。そういうものを少しでも皆さんに楽しんでもらえたらと思います」と、川名氏は作業終了後に、作品のあり方について話した。

 本番当日、池の上で繰り広げられる光景に園内の観客は息を飲んだ。生誕100周年を来年迎える作曲家、G.スヴィリードフの名曲に合わせ、「精神の波」を背景に、川名氏と弟子たちは竹・紫陽花・スモークツリーやリンゴの木などを使った見事な生花を披露し、会場は大喝采に包まれた。

 

「小さな物のなかに秘められた偉大さに開眼」 

 9年前に草月支部を卒業し、造園デザイナーとして働くエカテリーナさんは、川名氏と一緒に作業をするのは今回で4回目だそうだ。「ロシア人は大きな国土を持ち、その分、感情表現の規模や、美しさに求めるものも大きいです。しかし、川名先生の下で作業をしていくと、物事の見方が変わり、小さな物の中に秘められた偉大さを見極められるようになります」と感想を聞かせた。

 「事業が終わると、ホッとする反面、どうしても寂しくなります。ロシアが好きなので、機会があれば1~2年後にまた来たいです。文化交流とは、こういうことだと思います」と、川名氏は将来への希望を寄せた。「精神の波」はこの先1ヶ月間植物園で公開され、その後モスクワの会場を巡回する予定だ。