ソビエト時代のアニメ映画5選

ソビエト連邦のアニメは、当時のソ連人のライフスタイル、彼らの希望や夢が反映された、スケールの大きな文化現象だ。だが、優れたアニメ作品の芸術を楽しむためにはソ連出身でなければならないわけではない。もともとこれらは子供向けアニメであり、普通に観るのも楽しい。

1.『霧につつまれたハリネズミ』

 世界で最高のアニメ映画という声が多い。2003年に、世界中の140人のアニメ制作者が、それまでに制作された作品の中でトップ20を指名するよう質問された。『霧につつまれたハリネズミ』(ヨージク・ヴ・トゥマーネ)は第1位に選ばれた。『ヨージク』は「アートシアター」風のアニメ映画で、子供向けの漫画ではめずらしく、サスペンスと感情に満ち溢れている。事実上話の筋というものはない。単に小さなハリネズミが友達の子グマのところに行こうとするのだが、途中で濃霧に見舞われてしまう、というものだ。映画の残りの部分は、緊張感に満ちたバックグラウンド音楽、ビジョンと現実が霧の間に混在する中、ハリネズミの道のりを描写する。

 この映画は自然の美と不確実性を、さまざまな濃度の灰色と茶色を巧みに使って表現している。偉大な他の芸術作品と同様に、原作者のメッセージについていくつもの解釈が可能かもしれない。だが一つのことは確実だ。『霧につつまれたハリネズミ』は、視聴者に深い印象を与えるが、それは大人でも子どもでも同じだということ。

 2014年ソチ冬季オリンピック開会式では、『ヨジーク・ヴ・トゥマーネ』が、スプートニク、トルストイやドストエフスキーと共に、ロシアが誇る功績として紹介された。

ビデオ提供:Youtube / OneindigLaagland

 

2.『ワニのゲーナ』 

タス通信撮影

 『ワニのゲーナ』は3つのエピソードからなるこま撮りの人形アニメ映画だが、ロシア人の間ではカルト的存在になっている。ストーリーは、題名になっている主役、ワニのゲーナ(昼間はワニとして動物園で働いている)とアフリカからオレンジ箱に入って届けられた、巨大な耳を持つフワフワの動物、チェブラーシカの間にできた友情をもとにしている。筋書きは単純で、キャラクターはどれも愛らしく、老婆のシャパクリャクや彼女のペットであるネズミのような悪役でさえもが可愛すぎる。サウンドトラックも完璧だ。自分の誕生日についてゲーナが歌った唄(エピソード2、『チェブラーシカ』)は、全ソ連で伝統的な「ハッピー・バースデー」と同様に誕生日のお祝いの曲になった。

 2004年、チェブラーシカはロシアのオリンピックチームの公式マスコットになった。 

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3.『ヌ・ポゴディ!』(『今に見てろよ!』)

タス通信撮影

 ソ連の子どもたちにも独自の『トムとジェリー』があったが、ソ連版に登場するのは猫とネズミではなく、オオカミとノウサギだ。番組名は『ヌ・ポゴディ!』で、ソビエト連邦で最人気のアニメシリーズだった。筋立てはいとも単純で、オオカミ(単なる「オオカミ」で名前はない)がノウサギを捕まえようとするというもの。 

 しかし、『ヌ・ポゴディ!』は『トムとジェリー』をそっくりまねたわけではない。もちろん、それは追いかけ合ったり滑稽に転んだりするドタバタ喜劇であることに変わりはないが、この番組には社会風刺の一面もある。オオカミは戯画化されたフーリガンで、タバコを吸いアルコールを飲み、ソビエト社会が顔をしかめるような「スタイリッシュ」な服を着ている。一方のノウサギは模範的ソビエト青年だ。謙虚でスポーツ活動に精を出し、常に他人を助けようとしてやまない。しかし、典型的なソビエト青年であるノウサギは同時に抜け目がなく、かわいそうなオオカミを相手に手酷い悪ふざけをするのがたまらなく好きなのだ。

 音声は完全にオフにしない方がいい。『ヌ・ポゴディ!』では、ソビエト国民がラジオでは耳にすることができなかった西側諸国の音楽も含む、当時の流行ポップ音楽を聴くことができる。『ヌ・ポゴディ!』は今でも続いている。クラシックとみなされているのは1969年から1986年にかけて制作された16のエピソードだけだが、2012年には20作目のエピソードがリリースされた。

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4.『第三惑星のミステリー』 

 作家のキール・ブリチェフは、ソ連時代に、ハイテクの共産主義の将来からやってきた少女、アリーサを主人公とする子供向けSF小説の作家として、絶大的な人気があった。『第三惑星のミステリー』は、彼の小説が1981年に映画化されたもの。『ミステリー』の筋は複雑な探偵ものとして構成されており、宇宙旅行をしたり、銀河系間をまたぐ犯罪者、さまざまな宇宙人、そしてもちろんロボットが登場する。

ビデオ提供:Youtube / imolaa

 

5.『ブレーメンの音楽隊』

画像提供:プレス・フォト

 1969年のソ連では、ロック音楽、ファッション雑誌、ヒッピーやその他、西側諸国で流行していた文化的トレンドは敵対的であるとみなされ、公式のメディアでは禁止された。だが、ソビエトのアニメ制作者たちが考えたように、現実の世界で無理なら、それを漫画にしてしまえばいいのだ!こうして、『ブレーメンの音楽隊』というアニメ化されたロック音楽のオペラができた。吟遊詩人はビートルズ風のヘアカットに、フレアレッグのズボン、先の尖った形の襟をしたディスコシャツという格好だ。お姫様は、最新のファッション雑誌に掲載されているようなミニドレスを着こなし、2人は一緒に歌う。”カーペットは草原、壁は木々、屋根は青空! でもまぶしく光る宮殿の壁は自由の代わりにはならない”。

 実際に、ソ連に生まれた人なら誰でもこのヒッピー風の歌を知っている。ディスコグラスをかけたおんどり、おどけた帽子をかぶったロバが加わり、全員がリュート形のギターを持てば、これでキャラクターがお揃いだ。こうして70年代初めのポップカルチャーを、子供向けの番組を通して知ることができる。誰もがこれに夢中になったのもうなずける。現在に至るまで『ブレーメンの音楽隊』は最も愛され、最も有名なソビエトのアニメ映画のひとつだ。 

ビデオ提供:Youtube / Konstantin Somov