日露を一つにしたチャリティーイベント
モスクワでは、写真家の高梨悦子さんと国際交流基金(ジャパンファウンデーション)の有志のおかげで、このチャリティーイベントがスタートした。最初の催しはこじんまりとしたものだったが、回を追うごとに内容も充実し、3月2日にモスクワのプーシキン名称国立造形美術館(プーシキン美術館)で行われた三回目の催しでは、チャリティーイベント「地球の涙はツナミの涙」の枠内での五時間にわたる日本の文化や暮らしとの触れ合いが、被災者を思いやる心で日ロ両国民を一つにした。
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プーシキン美術館のアレクサンドラ・スチョーピナ副館長は、開会の挨拶のなかで、「自然災害と闘われる日本の方々の不屈の精神には、ただただ感服するばかりです。こうした精神は、日本の芸術に反映されました。日本人は、瞬時に永遠を捉え、世の儚さを感じます」
イベントの開催をサポートした在ロ日本大使館・広報文化部長の大槻耕太郎公使は、ロシア人の支援に心から感謝した。同氏は、震災時、ロシアの救助隊が日本の被災者の支援に向かったことを滞在先の韓国で知った。
プーシキン美術館の館長は交代したが、昨年と同様、今年も、同美術館付属の青少年芸術教育センター「ムセイオン」でこのイベントが催された。
プーシキン美術館が会場を提供
プーシキン美術館のグラフィック課長で日本コレクション管理人であるアイヌラ・ユスーポワ氏は、ロシアNOWにこう語った。「日本とは、古くから文化交流のつながりがあります。昨年12月にイリーナ・アントーノワ(前館長)に日本の最も権威ある褒章の一つ(日ロ間の文化協力発展への貢献を顕彰する旭日重光章)が授与されたのも、偶然ではありません。当館の日本コレクションは、ロシアにおける最良そして最古の日本版画のコレクションの一つです」
ユスーポワ氏は、「地球の涙」のための会場選びの基準についてこう述べた。「主催者は、大人も子供も無料で鑑賞できる分かりやすい場所にしたいと考えました。昨年も大盛況で、約500人の方が足を運び、約15万ルーブル(約45万円)が集まりました」
義捐金は陸前高田市へ
その義捐金は、津波に呑み込まれた岩手県陸前高田市の学校の支援に向けられ、高梨悦子さんは、自ら被害の最も大きかった場所を見つけ、そこへ義捐金を届けている。大きな団体にお金を渡す代わりに必要なものをすべて自分で購入することもしばしばという。「1コペイカも義捐金を無駄にしたくないのです」と柔和な笑みを浮かべつつも揺るぎない意志をのぞかせる高梨さん。
ユスーポワ氏は、こう語る。「日本の主催者がすばらしい雰囲気を創ってくださり、とても感激しています。人がただお金を置いていくだけというお寒い話もよく聞きますが、ここはまったく違います。震災のことを知ったとき、うちの美術館は、独自のチャリティーイベントを催したいと思ったのですが、それは無理なことが分かりました。ロシアの法律では、美術館がそうしたイベントを催すことは認められていないのです。その代わり会場を提供することはできるのでした」
毛筆の「同情」の意味を言い当てる
会場に足を踏み入れると、被災地の光景を映しだす上田聡さんと高梨悦子さんの写真が真っ先に目に入る。音楽家のマキ奈尾美さん(「地球の涙」のボランティア)と書道家の石嶋かおりさんの妙なる「音と書のコラボレーション」も、感銘深い。展示された作品は、高額の寄付をした人に贈られる。書道家が即興で書いた「同情」の意味をある観客が言い当てたが、その一言こそ、日本の悲劇に対するロシア人の思いを最もよく表している。
マキさんは、イベントの主催者のモチベーションについてこう語る。「被災者に寄り添いたいという熱い思いが私たちを突き動かしています。ボランティアたちは、この催しに自分のすべての時間と手段を捧げています」
高梨さんは、無関心ではいられない人々やボランティアがいなくならないうちはこのイベントは続く、と確信しているが、日本の女性たちは、せっかくロシアに来ても、2~4年の夫君の任期が終わると帰国してしまう。現在、ボランティアの中心スタッフは、8人ほど。
イベントの継続を訴える高梨悦子さん
高梨さんは、ロシアNOWを通じて、すべての心あるロシア在住の日本人にこのイベントの継続を訴えた。これで終わらせてしまうのは寂しいので…。日本人と同様、無関心ではいられない彼らのロシア人の友人や国際交流基金付属講習会の日本人教師の教え子たちも、マスタークラスを行っている。
高梨さんは、こう語る。「私たちのメンタリティーは似通っています。ロシア人は、欧州人と異なり、内気ながら情は深く、それは、日本人も同じです。私たちは、感情を露わにしませんが、思いやりに溢れています。それから、ロシア人も、自然をこよなく愛します」。マキさんも、こう語る。「音楽も似ています。たとえば、ロシアの民謡やロマンス(抒情的小歌曲)には、喜びや悲しみのほかに何か迸るようなものがあります、日本の音楽と同様に。まさにそれで、日本人はロシア民謡が大好きなのかもしれません」
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