心理学者、保健師、社会福祉相談員…ロシアのある郵便局員は、これらの専門家の役割をすべてこなしている=ヤコフ・ベルリネル撮影/ロシア通信
なぜ郵便局員に?
新聞購読者の郵便箱に刷りたての新聞を届けるため、郵便局員は朝6時に出勤する。勤続20年のチェンツォワさんはもうすっかり慣れっこ。とはいえ、出勤に時間はかからない。郵便局のある建物の上階に住んでいるからだ。この職業を選ぶきっかけとなったのは、ある悲しいできごと。「子どもが小さい時に夫が死亡したの。それで扶養者喪失手当を受け取っていたのだけど、手当をいつも配達してくれていた郵便局員に、ある時仕事について相談した。そしたらちょうど空きがあって、そこに入れてくれたの」
仕事を覚えるのに時間はそれほどかからなかった。早朝に届く新聞、手紙、小包を注意深くふりわけて、それを同じぐらい注意深く家々に配達する。「一度も配達先を間違えたことがないのよ」とチェンツォワさんは微笑む。
チェンツォワさんの担当している地域には、マンション、銀行、セルゴ・オルジョニキゼ工場のある産業ゾーンがある。「企業の入ってるビルが45棟以上あって、個々の企業に郵便物がある」。郵便局員は以前、手紙の入ったカバンを肩からさげていた。だが現在は、紺色の大きなキャリーバッグを使用している。
チェンツォワさんは、モスクワっ子がインターネット新聞だけでなく、紙の新聞もしっかり読んでいることを知っている。「多いのは『モスコフスキー・コム ソモレツ』、『コムソモリスカヤ・プラウダ』、『プラウダ』、『ソビエツカヤ・ロシア』、『夕べのモスクワ』、『論拠と真実』の新聞の購読者。刊行が必ず 毎日というわけではないから、今日は20紙、明日は30紙という具合に変わる。金曜日はすごく多いわ。朝7時までに新聞をわけて、1時間で配りきるの。朝 の新聞は8時までには郵便箱に入ってないといけないから。その後で休憩時間があって、10時までに職場に戻って、今度は14時まで手紙、預り証、書留などを配達する」
冬の暗い朝でも怖くないという。「担当地域の人は皆私を知っているし、私も皆を知っている。朝何時に出勤するか、登校するかもね」
配達に会話はつきもの
お年寄りはチェンツォワさんが来るのを今か今かと待っている。チェンツォワさんの配達時間を、電話で確認する人もたくさんいる。「お年寄りは私を出迎え て、見送ってくれるの」とチェンツォワさん。勤務時間に会話時間は含まれていないが、チェンツォワさんはひとりひとりに気を配る。「お年寄りには話し相手 が必要なの。何か心配ごとがあったら、それについて話すわ。いろいろなことについて話すの」
新しい雑誌について興味を持っていて購読手続きを依頼する人、身体の痛みを訴えて、すぐに病院に行くべきか、それとも薬局に行くべきかと相談する人、自分の家族について話す人などがいる。「一人暮らしのお年寄りは話し相手がいなくてつらいの。そういう人はすごくたくさんいる。特に女性。歩けないから、家賃を代わりに支払ってほしいとか、店で何かを買ってほしいとかいった依頼があれば、手伝っている。一人じゃできないもの」
チェンツォワさんは、自分が社会福祉相談員や心理学者の役目も果たしていることを認める。「お年寄りがすべてを話すことは大切。そうやって心を軽くしているんだから。かわいそうだけど、何もしてあげられない。話して楽になるなら聞いてあげないと。そして聞いたらちゃんと対応しないと」
チェンツォワさんは担当地域の人たちと交流できて喜んでいる。大きなサクラボウシインコをもらったこともある。「ある女性が年で世話ができなくて、子どもたちは仕事をしているからといって、私にインコをくれたの。その後インコがどうしているかを、その家族に話していた。そのインコがずいぶん長生きしたので、驚いていたわ。他にケナガイタチはいらないかって言われたこともあったけど、インコがエサになっちゃうから断ったわ」。イタチがとても気に入ったた め、ずっと後になってから、1匹ではなく、2匹飼うことにした。「1匹は毛の長い半外来種、もう1匹は毛の短いフェレット。1匹は落ち着いていて堂々と歩 いてるけど、もう1匹は回転軸みたい。肉食動物だから肉をエサに与えているわ」
経験豊かなペットの飼い主になったチェンツォワさんは今、担当地域の人々とペットのしつけについて話をしている。
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