彗星のように現れた大富豪夫人
「ウリヤナ・セルギエンコ」ブランドが誕生して間もない。2011年にデビューを飾り、今日すでにキャットウォークをシャネルやバレンシアガと共有している。デザイナーのウリヤナ・セルギエンコ自身は、ロシアン・レディー、ロシアのマトリョーシカ、ア・ラ・ルース・スタイルのアイコンなどと呼ばれている。
カザフ・ソビエト社会主義共和国ウスチ・カメノゴルスク市出身のセルギエンコは、ロシアの大富豪ダニール・ハチャトゥロフの夫人でありながら、デザイナーとしてさまざまなファッション・イベントに出席し、忙しいセレブ生活を送っている。慣例的なファッションとは一線を画した凝ったデザイン、深く計算された調和と特徴で、ファッション界では存在感を放っている。
控えめなのにセクシー
エカテリナ・チェスノコワ撮影/ロシア通信
ふっくらとしたくるぶし丈のスカート、ハイネック・ブラウス、後ろで結んだスカーフ、真っ赤な唇というお決まりのルックで、ファッション・レポートから 消えることはない。控えめでセクシーとは、変わった組み合わせだ。西側諸国でロシア風スタイルやロシア・レトロへの関心が高まっているのも、セルギエンコのおかげである。
注文に応じてたくさんの服を縫製し、装飾を施して器用にスタイルをつくっていたが、やがて人気が高まり、世界的なブランドに成長した。顧客にはレ ディー・ガガ、サラ・ジェシカ・パーカー、アンナ・デッロ・ルッソ、カリーヌ・ロワトフェルド、ナタリヤ・ヴォジャノワ、ミロスラヴァ・ドゥマなどが名を 連ねる。
評価は様々だが注目の的
Getty Images/Fotobank撮影
セルギエンコは自身の夢をかなえた。「ずっと前からファッションに関心を持っていて、子どもの時からクチュールを身にまとうことを夢見てた。まさか自分の名前のついたクチュールができて願いがかなうなんて、思ってもみなかった。すごいことだわ」
ロシアではセルギエンコに対する評価が異なる。有言実行してえらいと言う人、典型的な「ルブリョフカの奥さん」(高級住宅街ルブリョフスコエ通りに暮らす、大富豪と結婚した女性で、何もしなくてもぜいたくができる)と言う人、また才能豊かで非凡なデザイナーと言う人がいる。
外国の専門家の評価も、必ずしも一致しているわけではない。演劇風の演出が過剰で、作品は華美かつ庶民的と言う人がいれば、独特なコレクションと、自国の歴史を調和をもって解釈できるセルギエンコの能力に感動する人もいる。
セルギエンコによると、最初のコレクションは、「1950年代のソ連版ヴォーグの図解」(実際にはソ連にヴォーグ誌はなかった)だったという。タイトでロングなドレス、毛皮のコート、セーターなどのレトロなシルエット、ウォレットという組み合わせの初めてのショーは、ブロガーからバイヤーまでの、さまざ まな人をインスパイアした。
洗練された「ロシアの色彩」
イリヤ・ピータレフ撮影/ロシア通信
次のコレクションではさらなる冒険として、ソ連的美学を網羅したスタイルに、ボリューム感たっぷりの農婦のスカート、麦わら帽子、シフォン要素のある官能的なボディを加えた。以降、丈の長いドレス、スカーフ、くすんだ二次色、「ロシアの色彩」がブランドの特徴になった。
今やブランドはロシアのスターや海外のセレブに愛されている。ビヨンセは新しいミュージック・ビデオ「ホーンテッド」の中で、ウリヤナ・セルギエンコの 秋冬コレクションである、ホワイトのジャボのついたベロアの服を着ている。また同じくミュージック・ビデオ「ジェラス」の中で、ウリヤナ・セルギエンコのレースのケープを身につけている。このケープの制作には、ヴォログダの職人15人が取り組んだ。神秘的な「ロシアのマトリョーシカ」は、数年で大成功を遂げている。そして独自のスタイルでファッション界を喜ばせ、自身のブランドの最高のモデルとなり続けているのだ。
ビヨンセのミュージック・ビデオ
「ホーンテッド」
ビデオ提供:YouTube/ビヨンセ公式チャンネル
ウリヤナ・セルギエンコの美しいブラックのベロアとピュア・ホワイトのジャボには、ビヨンセのスタイリストが2013/2014秋冬パリ・コレクションで注目していた。
「ジェラス」
ビデオ提供:YouTube/ビヨンセ公式チャンネル
ブラック・レースのケープは、このミュージック・ビデオのために制作された。ヴォログダの職人15人が、昔からの特別な技術を使い、2ヶ月で仕上げた(個々にレースを編み、最終段階で一体化)。