ヴャトカのアカハツタケ

Lori/Legion Media撮影

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ロシアの寒い季節は長期にわたるため、食料の保存方法はその分豊富だ。さまざまな塩漬け、砂糖漬け、酢漬け、乾燥、くん製、自然温度での冷凍など。シベリアのペリメニ(水餃子)だって屋外に置けば、すぐに凍結するから、長く保存できる。

塩漬けの秘法 

 塩漬けはおそらく、一番ロシアらしい保存方法だろう。塩漬けニシンや塩漬け肉がヨーロッパの類似食と異なる点は、香辛料の種類だけだろう。だがこれがキノコや野菜となると、その調理方法はとても独特だ。

 家庭の保存食品から主に構成されるロシアのさまざまな前菜の中でも、キノコは王様と考えられている。キノコや野菜の塩漬け方法として、その水分と塩で乳 酸発酵させる技術があるが、これは古代から伝えられているもので、他の国では適用されていない。例えば、キュウリを塩漬けする時に、オーク製の樽の底にラ イ麦のワラを敷く。

 キノコを塩漬けする時の秘密もある。キノコの中でもアカハツタケはその価値、味、吸収率でヤマドリタケやチチタケよりも優れている。これは緑色の斑点のついたニンジン・オレンジ色系の菌しゅうのあるキノコで、初秋に狩る。見つけることができたらラッキーだ。このキノコは環境の影響を受けやすく、モスクワ 郊外の松林では30年前にそれほど珍しくなかったにもかかわらず、今はほとんど見あたらない。

 

聞くだけで涎が流れる 

 主なアカハツタケの生息地はキーロフ州。この州都はボリシェヴィキの指導者の一人にちなんでキーロフと名付けられたが、ソ連が崩壊した後も帝政ロシア時代の名称であるヴャトカに戻されていない。住民はヴャトカと呼んでいる。ロシアのグルメ好きなら、「ヴャトカのアカハツタケ」と聞くだけでヨダレがでてくる。この地域には国内最高のアカハツタケが育つ松林、いわゆる針葉樹林がたくさんある。類似種のアカハツモドキとなると、その価値はずっと下がる。

 古代スラヴの部族名のひとつであるヴャティチが街の名前ヴャトカに反映されているように、この周辺には、古代から伝わるアカハツタケの乾燥塩漬けの方法が残っている。

 

古代から伝わる作り方 

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 オーク製の樽の底にビャクシンの枝を敷き、水を注ぎ、焼け石を入れ、目の密な布でカバーする。このようにして樽の殺菌を行うと、内部に香りが残り、自然な香辛料となる。枝を取り出し、水を捨てたら、樽の中に処理済みのキノコを重ねていく。アカハツタケには自然の抗生物質ラクタリオヴィオリン が含まれているため、洗ってはいけない。きれいな布を使って砂と葉をていねいに除去する。アカハツタケ1キログラムあたりに40~60グラムの粗塩をまん べんなくふりかけて、重ねていく。樽が満杯になったら最後の塩をふりかけ、木製の丸板を置いて、その上に重しを置く。重しに使うのは、洗浄済みの花こう岩。水分が出てきたら都度捨てる。あまりたくさんの水分があるとよくないため。

 6~8度の温度下(村の地下倉庫の自然温度)に1ヶ月置けば、おいしいウオッカの肴はできあがり。栄養学者はアカハツタケを評価している。キノコのタンパク質はなかなか吸収されないのが普通だが、アカハツタケには吸収されやすいアミノ酸が含まれており、発熱量において塩漬けアカハツタケは子羊肉と同等か それ以上だ。

 

生でも美味しい 

 アカハツタケは生でも食べることのできる、また生で体に良い、数少ないキノコの一種。菌しゅうを上にして並べ、塩をかけて1時間ほど置き、水分が出てき たら食べることができる。生のアカハツタケを食べると、味にうるさい料理人でも、香辛料が不要であることを理解する。ニンニクあるいはショウガのような、 それでいてやわらかな、固有のわずかな辛さと果物のような後味は、何も必要としない。

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