最近の音楽テクノロジーについて討論

Noize MC(イヴァン・アレクセーエフ)は、現代の技術が才能あるミュージシャンを成功に導いたという良い見本だ。=タス通信撮影

Noize MC(イヴァン・アレクセーエフ)は、現代の技術が才能あるミュージシャンを成功に導いたという良い見本だ。=タス通信撮影

近年、ロシアのミュージシャンは、最新の電子テクノロジーを用いた音楽制作の無限の可能性を手に入れた。しかし、テクノロジーは本当に自己表現を助けているのだろうか。この問題を議論する公開討論会がモスクワで開催され、ロシアNOWが取材をした。

フローリングで作ったギターやアンプに改造したラジオ 

 20世紀後半、ロシアのロックやポピュラー音楽業界は欧州や米国に比べ、技術的に遅れを取っていた。「鉄のカーテン」時代、ロシアの音楽業界は隔離されており、ロシア人ミュージシャンは良いギター、アンプやマイクを入手することができなかった。1970年代から80年代前半にかけ、ロシア人音楽家はフローリングで作ったギターや、アンプに改造したラジオ受信機など、安価なものや手製のものを使っていた。

 ここ10年で、ループ・ステーションやシンセサイザーなどの現代の録音機器は、誰にでも利用できるようになった。Punk TV、 EIMIC、 Cheese People、 Noize MCなど、最近のロシア・バンド音楽は、ループ素材や効果音に頼る部分が多い。

 今ではあらゆるものがオンライン・ストアで販売され、どんなに複雑な機材でさえ世界中どこからでも手に入るが、果たして、それは本当に音楽の才能を伸ばすのに役立つのだろうか。

 

ギブソン・ギター・コーポレーションのイベントで討論会 

 ギブソン・ギター・コーポレーションがモスクワで開催したイベントで、副社長のクレイグ・アンダートンが、ミキサー内蔵アンプやセルフチューニングのギターなど、革新的な製品の開発について講演した。150人以上の聴衆がこのスピーチを聞いた後、スコーピオンズの創立メンバーの一人であるルドルフ・シェンカー、トリプレックス・プロジェクトのロシア人電子音楽家アンドレイ・イヴァノフとロシアのヒップホップスター Noize MCとの間で討論会が行なわれた。

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『反骨の音楽』健在

 Noize MC(イヴァン・アレクセーエフ)は、現代の技術が才能あるミュージシャンを成功に導いたという良い見本だ。インターネットを介して音楽を配信しているうちに(フリースタイルのストリート・ショーも頻繁に行なっていた)、イヴァンはレコード会社に認められ、今ではロシアのヒップホップ界で大スターになった。しかし彼にとって、テクノロジーは才能を活かすためのツールに過ぎない。

 

「経験、教育、感性にとって代わるソフトは存在しない」 

 「新しい歌のアイディアさえ掴めば、実際の制作はサウンド・エンジニアに任せれば良い」。彼にとって、新しい技術の主な利点は、「アイディアから実現までの過程を短縮する」ことである。

 サウンド・エンジニアリングに関しては、熟練したエレクトロニック・プロデューサー及びサウンド・デザイナーであるアンドレイ・イヴァノフは、最新の機材があっても、基礎を身に付けていなければならないと言う。例えば、曲に複数の楽器の音をミックスするには自身の経験、音楽教育と感性が必要であり、それらに代わるソフトは存在しない。

 オートチューンのような今日の技術があればどんなにひどいミュージシャンでも聴けるようになるという俗説に関して、クレイグ・アンダートンは、それは昨今発明されたものではないと指摘した。アナログ録音の時代でも、機械を用いてテープの速度を調整し、音程が悪い楽器や声のピッチを変えることは頻繁にあったが、当時も今も、そのような機械は編集するためのツールに過ぎない。本当の才能は真似することも隠すこともできない、とイヴァノフもアンダートンも口を揃えた。

 

「テクノロジーは真のインスピレーションを殺す傾向がある」 

 驚いたことに、スコーピオンズのルドルフ・シェンカーは、「テクノロジーは真のインスピレーションを殺す傾向がある」と述べ、 現代のコンピュータ技術を利用した音楽をあまり信じないと語った。しかしながら、 スコーピオンズのようなバンドはコンサートの際、非常に多くの機材を必要とする。討論会後ロシアNOWの質問に答えたシェンカーは、90年代からロシアで頻繁にツアーを行なっていたが、「ライブの際の機材が劇的に良くなった。2000年のツアーではまだ難しい部分もあったが、ここ10 年でロシアのコンサート事情はヨーロッパ並に達した」と言った。

 スコーピオンズのような有名でギャラの高いアーティストにとっては、状況は改善したかもしれないが、ロシアで独力で音楽をやっているアーティストには、依然として難しい。そう主張するのは、ロシアのアングラ・ロック業界のベテラン、「ツェントル」のヴァシリー・シュモフ。ロシアNOWへのミニ・インタビューで彼は、現代の技術がロシアの音楽業界に浸透するのに時間がかかっていると述べた。

 

外国のスターは最新テクノロジーを使えるが・・・ 

 目新しいものはスタジオでよく使われているが、ライブとなると、「技術にかかる費用が高額なこと、機材が大きいことや裏方が必要なことなどにより、最新のコンサート用テクノロジーは、最もギャラの高いロシア人アーティストにとっても手が届かない」とヴァシリー・シュモフは指摘した。

 しかしその一方、テクノロジーを使い、ループやライブ・モンタージュを利用すれば、一人のアーティストでもバンドとして活動することができる。このようなミュージシャンは、一人でツアーを行なうことができるし、メンバーが沢山いるロック・バンドに比べて経費を最低限に抑えることができる。

 ヴァシリーによるとこのような音楽の作り方は、たとえ短命でも事業計画が整っているポップス・プロジェクトに投資することを好むロシアの興行主には、まだ人気がない。

 「最近よく、ネットのクラウド・ファンディング・サイトで資金を募ってアルバムを制作したバンドについてのニュースを聞く。まるで音楽そのものにはニュース価値がないかのように、そういうバンドの音楽に関しては言及されない」。こうヴァシリーは言う。

 様々な音楽家達の意見をまとめると、ロシアでは最近のテクノロジーに対する知識も尊敬の念もある。しかし、ロシアの音楽業界はソロ・アーティストが新しいことを発見するのを奨励せず、新人にチャンスを与えるライブ会場は少ないので、最近のテクノロジーが活かされるようになるには、ロシアの音楽業界の改革が必要だ。