変わりゆくロシアの漫画事情

ヒフスは漫画のジャンルを確立するために、漫画家を集めて「死魚の人々」という団体を設立し、その後国際絵物語フェスティバル「コミッシヤ(KomMissiya)」(「開放された世界の日」はこの関連フェスティバル)を企画した。

ヒフスは漫画のジャンルを確立するために、漫画家を集めて「死魚の人々」という団体を設立し、その後国際絵物語フェスティバル「コミッシヤ(KomMissiya)」(「開放された世界の日」はこの関連フェスティバル)を企画した。

第2回「開放された世界の日」フェスティバルが11月1日、モスクワのデザイン工房「フラコン」で始まる。フェスティバルのプログラムの大部分は、ロシアにとって新しいジャンルである漫画だ。

ソ連時代は低俗な娯楽扱い 

 ロシアにはルボークと呼ばれる、漫画に類似した固有のジャンルがある。何世紀も前から存在している伝統的な民衆版画で、絵と文字で歴史を語っている。

 ソ連時代に唯一正式に認められていた、西側のコミックに相当する本は、1956年初版の児童向け雑誌「ヴェショルィエ・カルチンキ(楽しい絵)」。当時、アメリカの“低俗”な娯楽的ジャンルであるコミックは、ソ連国民には不要とされていた。

 1990年代に入ってソ連政府の影響力が低下すると、「テーマ」、「コム」、「ムハ」といった漫画を出版する人気出版社が次々に誕生。「テーマ」は 1990年、「ドンキ警部の冒険」を出版した。これは瞬く間に象徴的な漫画となり、当時子供だった30歳以上のロシア人は、いまだにこの漫画について嬉しそうに語る。ドンキ警部が天国や地獄に行くこの物語は、漫画とはいえ、子供向けとは言いがたい。

「ドンキ警部の冒険」=写真提供:Press Photo

20042005年にコミック・ブームが始まる 

 「本格的なコミック・ブームがロシアで起こったのは2004~2005年。この頃、アメリカのコミックや日本の漫画といった、海外の作品などを翻訳して出版する会社が何社も出てきた。どの社会学者も、今の子供たちは上の世代とは異なり、文字よりもイメージや絵で世界をとらえるようになっていると言う。 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を見ると、絵とその注釈で交流している子ばかり。コミックは自己実現と世界認識のための重要なジャンル となった」。モスクワのコミック・センターの主催者であるウラジーミル・クニン氏は、ロシアにおけるコミック・ブームの起りをこう説明する。

 

漫画家ヒフス 

 このジャンルで今日中心的な役割を果たしているのが、独自のあらすじのロシア風漫画を出版している「バブル」出版社と、この分野での貢献度がとても高い漫画家のヒフスことパーヴェル・スヒフ。

 「バブル」はロシア人を登場人物にした4種類の月刊漫画雑誌「赤いフリアイ」、「雷少佐」、「ベソゴン」、「イノク(修道士)」を、2012年から発行 している。「バブル」のアルチョム・ガブレリャノフ社長はこう話す。

 「あれこれの漫画について、これは純ロシア風だとか西欧風だとか、よく言われるが、私には何のことやら分からない。すべてのスタイルがずっと前から混ざり合ってる状態だから。例えば有名な漫画家のジョー・マデュレイラの作品は、アメリカ式と日本式という相容れない 2つの画法の組み合わせ。ロシアについて言うと、当出版社の各漫画家に独自のスタイルがあって、それぞれに大勢のファンがいる」。

 

国際フェスティバル「コミッシヤ」を企画 

 元々詩人であり、芸術家だったヒフスは、すぐに有名になったわけではない。1990年末にデンマークに渡り、そこで漫画が自分に一番近いと悟った。「デンマークのとある市立図書館でコミックを見つけ、この中には世界が丸ごと存在し、その世界とはソ連時代に言われていたような『ブルジョアの破壊的傾向』ではなく、芸術そのものであることを理解した。ロシアに帰国したばかりの頃は『コミック』という言葉に良いイメージがなかったから、『リソヴァンヌィエ・イ ストリイ(絵物語)』という呼び方を普及させようとした。だけど長すぎて受け入れられず、結局『コミック』がロシア語でも定着した」。

ヒフスの作品 

 ヒフスは漫画のジャンルを確立するために、漫画家を集めて「死魚の人々」という団体を設立し、その後国際絵物語フェスティバル「コミッシヤ(KomMissiya)」(「開放された世界の日」はこの関連フェスティバル)を企画した。

 「フェスティバルはCIS各地に存在する才能のある人々が業界関係者と交流し、受注できるような場所を目指して開催されたが、とても反響があった。このフェスティバルにはスターが訪れ、有名で愛されていることが毎年証明されている」とヒフスは胸を張る。

 

大学にコミック講座も創設 

 「コミッシヤ」は国から一切支援を受けていないが、ここで注目されれば仕事が見つかる。ヒフスは将来について明るい見通しを持っている。

 「漫画に関わりたい人のための必要な条件がそろいつつある。現在のロシアのマスター・クラス(教室)のシステムは世界に劣っていないから、企画から目を離せない。あとシネルギヤ大学には初めてのコミック講座ができたから、卒業証書に明記された、正式な漫画家になることもできる。漫画はただ絵を描けばいいというわけではなく、物語を自分で考えたり、わかりやすい絵コンテを描かなければいけないから、実写映画に近い。これもしっかりと理解できれば、漫画制作に携わることができる」。

 

漫画の社会参加 

 ロシアの漫画家は世界で求められつつある。「コミッシヤ」にはさまざまな国から関心が寄せられており、海外の漫画家も毎年大勢参加している。また海外の出版業界も注目している。

 漫画が社会的な課題を解決することも明らかとなった。「開放された世界の日」の主催者で、ドキュメンタリー映画監督であるマリヤ・ビャルコ氏はこう話 す。

 「『青少年の麻薬・アルコール防止』をテーマとした、青少年向けのドキュメンタリー・アニメをつくるプロジェクトに参加しないかと、ヒフスから提案を受けた。できあがったのは、説教の代わりになる、教育アニメ・シリーズ『SUPカルチャー』。このアニメのおかげで、『コミッシヤ』と『開放された世界 の日(DOM)』という相互に補完しあうフェスティバルのペアも生まれた。『コミッシヤ』が漫画、講義、マスター・クラス、『DOM』がコスプレ、ビデオ ゲーム、スチームパンクを扱っていて、どちらも交流と創作の優れたプラットフォームになっている」。