現代のヒロインに贈るファッション

AFP/East News撮影

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ワレンチン・ユダシュキンは、ロシアでもっとも成功したデザイナーの一人だ。ロシアの五輪代表のユニフォームから、香港、フランス、アメリカにブティッ クを構えるファッション・ハウス「Valentin Yudashkin」まで、さまざまなプロジェクトを手掛けている。25年間にファッション界でやり遂げたことは、枚挙にいとまがない。

おしゃれな軍服を着たら風邪ひいたと批判

 だが一流職人といえども、すべてが順風満帆というわけにはいかない。数年前、ロシア連邦国防省の発注を受けて、美しい軍服をデザインしたが、それを着た兵士が次々に風邪をひいてしまったため、その責任を問われた。ユダシュキンの”おしゃれ”な制服が実用的であるわけがない、良いことなど何もない、と多くの政治家や官僚が批判した。

 これに対してユダシュキンは、自身のデザイン(軽いが温かくて丈夫な布、多機能付属品)が、縫製の際にほとんど無視されていたと正式に反論。ちなみにユダシュキンは、服飾史分野の専門家として(最初の高等教育は美術専門学校服飾史科)、このデザインに真剣に取り組み、1年以上もの時間を費やして文献を調べ、特別な軍服を研究していた。

ユダシュキンは数年前、ロシア連邦国防省の発注を受けて、美しい軍服をデザインしたが、それを着た兵士が次々に風邪をひいてしまったため、その責任を問われた。=AFP/East News撮影

 ユダシュキンはすべてのプロジェクトに臨機応変に対応する。最初の大々的なコレクションは、その名称からすでに期待が高まってしまう「ファベルジェ」。 コレクションのドレスはどれも、芸術作品と呼べるものだった(1着はフランスのルーヴル美術館に、そして数着がカリフォルニアのファッション博物館とモス クワの国立歴史博物館に展示されている)。

「ファベルジェ」コレクション=ロシア通信撮影

10年足らずでパリ・ハイファッション・シンジケートの一員に

 ユダシュキンの仕事は徹底していて真剣だ。ブランドのラインは下着、プレタポルテの服とジーンズ、デザイナーの付属品、靴、宝飾品、時計、磁器と調度品と決まっている。ユダシュキン自身のキャリアは10年にも満たないのに、パリ・ハイファッション・シンジケートの一員にまでのし上がっている(1996年 にバレンチノ・ガラヴァーニやジャンニ・ヴェルサーチと並んでシンジケートの通信会員になった)。

 ユダシュキンは初めてパリに来た時、ソ連とのあまりの違いにがく然とした。物不足のソ連では、知り合いや”仲介者”に頼まなければ、良質の生地を入手することができなかった。また実用性重視で付属品は余分なものと考えられていたし、紡織工場では1~2種類の手袋と帽子が量産されているだけだった。異なる デザインのバッグとそれに合う手袋を持つことなど、ソ連の一般市民にとっては非現実的だった。

 おしゃれ品と言えば、他の社会主義国から輸入される物だけで、それすらも高額でデパートの陳列台に小ロット分しか並ばなかった。ルーマニア製の憧れの手袋を求めて何時間も行列に並んでも、買える保証はなかった。

 このような状況だったからこそ、ユダシュキンが真のスターになれたのかもしれない。当時ファッション・デザイナーは一握りしか存在していなかったため、 誰もが有名になり、愛された。ソ連崩壊直後、ロシア人はユダシュキンのコレクションがパリのファッション・ショーで披露されていることをあまり知ら なかったものの、「ユダシュキンのワンピース」には、ピエール・カルダンやシャネルのワンピースと同じぐらい、ぜいたくな響きがあった。

Foto Imedia撮影

劇場としてのファッション

 「ヴァリ・モーダ・ファッション劇場」というユダシュキンのアトリエの名称は、簡単に決まったわけではない。第一に、1990年代初めには、まだソ連的な全体主義が根強く残っていて、自分の名前を会社名にするということが図々しく感じられたため。第二に、ユダシュキンのコレクションは、芸術を源としているものがほとんどだったため。

 ユダシュキンのモデルは装飾の多さ、多彩さ、大胆な形、フェミニンさで際立っていた。ソ連時代にはこれがおとぎ話のように感じられ、実際に演劇ととらえられていた。ユダシュキンは当時を思い出しながらこう話す。

 「例えば採掘現場とか、どこかの職場に呼ばれて出張する。綿入りのアウターを着て、頭にスカー フをかぶり、帽子をかぶっている作業員たちに、朝9時から衣装やワンピースを見せる。すると作業員は拍手してくれる。誰もが『こんな服は絶対に買えない し、着れないけど、見ておくわ』って構えだった」。

ユダシュキンのモデルは装飾の多さ、多彩さ、大胆な形、フェミニンさで際立っていた。1989年=ロシア通信撮影

果てしなきイマジネーションの旅

 ユダシュキンのイマジネーションは果てしなく続く。2013~2014年秋冬コレクション(「雪の女王」)を見るだけでもそれはわかる。モデルはスチー ル・グレーのパンツ・スーツ、シルバ・ファーのついたファー・コート、窓霜をイメージしたレースの半透明なドレスなどを着て、キャットウォークを歩く。小さなポンポンのついたピルボックス・ハット、クラッチ・バッグ、ポンポンのついたイヤリング、レギンスなど、真っ白なファー・アクセサリーがたくさん出て きて、冬のおとぎ話そのものだった。


2013~2014年秋冬コレクション=Vostock Photo撮影

 現代のおしゃれな女性たちは、とても自分に自信を持っていて、自立していると、ユダシュキンは考える。「現代女性は割り切った考え方をし、意見をしっかり持っていて、自分が何を求めているのかをよく理解している。私のヒロインは、若くて、セクシーで、壮健で、活発で、働いている女性だ!」