ジェニファー版「肉鍋」

Lori/Legion Media撮影

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今日の典型的なロシアのシチューは、単に「肉鍋」とよばれているもので、その調理方法は「ペチカ」が使われていた時代に遡る。

 伝統ロシア料理の不変の理は、ゆっくりと調理するという原則だ。この慣習は、英国や米国の家庭で情熱的な「ルネッサンス」的人気を謳歌しているが、これは主に時間を節約できるという理由によるものだ。材料を電気スロークッカーに入れてタイマーを5時間にセットすれば、ほら、一家の夕飯が出来上がり。そして 1日を自分の好きなように過ごせるというわけだ。

 

ゆっくり火と水で 

 この種の台所の魔法は、農耕社会だった革命以前のロシアではきわめて真剣に捉えられており、それは、はるかキリスト教以前の時代まで遡る。前キリスト教時 代のスラブ人にとって、火と水は有力な神であり、合体した彼らの威力は特に強力であると信じられていた。この融合を完璧に表す料理は、ロシアならどこにでも遍在するオーブンつきコンロの「ペチカ」を使って行われた。

 陶製の本体が陶製タイルや陶磁製タイルで覆われたロシアのオーブンつきコンロは、どんな小作農の家の片隅にもあり、最低でも床面積の1/5は占める大きさだ。この効率的な薪ストーブユニットは、家の暖房に加えて、家族の中でも小さな子どもや老人が寝るためのスペースを提供したが、同時に食べ物の調理に使用する、きわめて効率的な器具でもあった。ロシアのオーブンつきコンロは、裸火との接触を効果的に避け、材料が過熱したり焦げるのを防止する一方、一定温度 の乾燥した熱を発する。このオーブンつきコンロはパンを焼いたり、ハーブを乾燥させたり、スープをトロ煮にしたり、オート麦やソバのような基本食品の穀物 を炊くのに用いられた。

 

ペチカは家の要 

 ペチカは、単なる効率的なオーブンやコンロではなく、家族の生活の中心でもあった。ペチカを作ることは、開拓時代の納屋の建築と同様に、喜びに満ちた、共同社会全体が関わる行事で、その後には賑やかなお祝いが行われた。このストーブが完成すると、カーシャの料理がオーブンの中に入れられて、気まぐれな家庭の精「ドモヴォイ」へのお供えとされた。この精は、各家庭に住み着き、ちょっとしたお供えをしたり何気なくおだてたりして定期的 にご機嫌を取らないと、悪さをしたり混乱を引き起こしたりすると信じられていた。

 することがない長い冬の間、成人の男性は、ストーブの傍やそのすぐ上部で長時間うたた寝をする。ロシア語で「ものぐさ太郎」にあたる言葉は「ペチューシュニク」だが、これはいうまでもなく、ペチカのストーブの上での居眠りのことを指している。冬の昼寝を中断できるのは、ストーブのすぐ下にあるオーブンで調理された温かいシチューを楽しむ時だけだ。

 

ドモヴォイも沈黙の新レシピ 

 今日の典型的なロシアのシチューは、単に「肉鍋」とよばれているもので、その調理方法は「ペチカ」が使われていた時代に遡るものだ。肉と野菜が1人前分の 陶製鍋に層状に入れられ、蓋をして、熱いオーブンで調理される。それは18世紀の田舎でなされたレシピと全く同じだ。20世紀に電気やガスが到来しても、 「肉鍋」の人気が揺るぐことはほとんどなく、この料理は現在に至るまで、メニューの定番になっている。

 シチューは温かくてお腹いっぱいになるが、私自身は水っぽく、風味と食感に欠けると感じることがよくある。マヨネーズを上にたっぷりかけるというロシア人のこだわりは、こうした欠点を矯正するための不適切 な試みに他ならない。

 つい最近の週末まで、私は「肉鍋」を料理のいわゆる「くず山」に追いやったままでいた。外では雪がこんこんと降り、HRH(私のハンサムなロシア人の夫)がフラットスクリーンテレビの前で模範的な「ペチューシュニク」芸を披露する中、私は「肉鍋」の基本的な材料がそろっていることに気づいた。私はお料理に関するチャレンジがたまらなく好きなので、このロシア料理の定番をもう少し美味しいものにできるかどうか、挑戦してみることにした。 『風味の聖書』でちょっと調べ物をし、スパイスラックを漁って、材料の準備に少し工夫を加えてみると、オーブンに隠れているどんな文句好きの「ドモヴォイ」も黙らせるのに十分な結果になった。

鍋と材料:

1人前分の陶製鍋4つか、2〜3リットルのキャセロール用ふた付きの蒸し焼きなべ1つ。

赤身の子羊肉または牛肉、600グラム、1〜1.5センチに角切り

赤じゃがいも、450グラム、皮をむかずに1〜1.5センチに角切り

大きめのニンジン、3本、1〜1.5センチに角切り

大きめの茄子、1個、1〜1.5センチに角切り

大きめのタマネギ、1個、粗刻み

プラムトマト(料理用のチェリートマト)、枝をとり、皮をむき、きざんだもの(あるいは処理済みの缶詰1個)

ビーフブイヨンか赤ワイン、1カップ(250 ml)、または両者を混ぜ合わせたもの

肉にまぶすための小麦粉

アンチョビの切り身、3匹

オレンジの皮、大さじ1(15 ml)

ニンニク、5かけ、皮をむいてつぶしたもの

新鮮なパセリ、1/3カップ、細かく刻んだもの

ローズマリーの小枝、1本

タイムの小枝、3本

トマトピューレ、大さじ3(30 ml)

添加物なしの粗塩、大さじ3(30 ml)

粗く砕いた黒胡椒、小さじ2(10 ml)

植物油

バター

 調理法: 

1. 茄子の角切りに食塩をたっぷりかける。角切りを水切りボウルに入れ、ボウルの中で一方に寄せ、室温で45分間置いておく。角切りの茄子を簡単に冷水ですす ぎ、ペーパータオルで軽くたたいて水分を吸収する。茄子を皿の上に出し、ペーパータオルで覆い、電子レンジの最高電力の設定で1分間調理する。置いてお く。

2. オーブンを180度に予熱し、ラックを中段に設定する。

2. 角切りの肉からペーパータオルで水分を吸い取り、小麦粉をまぶす。底の厚いフライパンあるいはダッチオーブンを少量のオリーブ油で覆い、はね始めるまで加熱する。肉のそれぞれの表面を30秒間あぶる。置いておく。

3. 無反応性の混ぜ鉢の中で、フォークの背の部分を使ってアンチョビの切り身をつぶし、まな板の上にすくい出す。つぶしたニンニク、粗塩、タイム、ローズマ リー、パセリ、オレンジの皮と砕いた黒胡椒を加える。大きい包丁の刃とその側面を使って、混合物がペースト状になるまでこれらの材料を混ぜ合わせる。置い ておく。

4. トマト、トマトピューレとブイヨン/ワインの混合物をフードプロセッサーに入れ、スムーズになるまで短くオンオフしながらプロセスする。

5. 陶製鍋かキャセロール用のふた付きの蒸し焼きなべの準備をする。内部をバターで薄く覆う。肉を最下層に並べ、その上にニンニク/ハーブ/アンチョビのペー ストの約1/4を塗る。ジャガイモ、ニンジン、茄子といった残りの野菜で層を重ねていき、それぞれの層の上に1/4のペーストで覆う。

6. 一番上の層が浸されるまでトマトとブイヨンのミックスを鍋/キャセロール鍋に注ぐ。

7. 1時間半火を通し、ジャガイモが柔らかくなっているかどうかチェックする。柔らかくなっていたらオーブンから鍋を取り出し、新鮮なパセリをかけて、食欲をそそるロシアの黒パンとバターと共に食卓に供する。

 では、プリヤトノヴォ・アペティータ(美味しく召し上がれ)!