レフ・トルストイ、ヤースナヤ・ポリャーナ、1860年=写真提供:Lightroom Photos
デジタル化作業には、ロシア文学を愛する、一般の人々もボランティアで参加。プロジェクト開始を発表した2時間後には、デジタル化されたページの校合と校閲のボランティアとして、多くの人が登録を済ませていた。
2週間後には全90巻(4万6000ページ)を読了。参加者は1日平均8.5巻または3344ページを読んだ。2ヶ月間で参加したボランティアの数は3123人に達した。ロシア国内252市町村のロシア人だけでなく、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、アメリカ、ドイツ、ブラジル、アルゼンチン、ニュージーランド、ペルー、タイの住人など、実に49ヶ国のファンが協力。
プロジェクトを発案した、トルストイの玄孫で、国立トルストイ博物館発展部の部長を務めるフョークラ・トルスタヤさんは、こう話す。
「これほどの協力が あるとは思っていなかった。それなりの手助けを得られても、主な仕事は自分たちでやらなければならないだろうと。ところが通常であれば数年かかる仕事を、 皆さんがわずか2週間で完了してしまった。これには本当に驚いた」。
トルストイは人々に自分の作品を譲ると遺言していた。ソ連時代の1928年から1950年代までに出版された作品をまとめたもので、現時点で最大となっているのは全90巻の作品集。うち半分はトルストイの書簡と日々の手記だ。
トルストイの隠れた著作
ロシアにおけるトルストイを取り巻く状況には矛盾がある。知られていながら、 まったく知られていないのだ。ソ連時代でもそれ以降でも、トルストイは文学の天才として高く評価されていたし、ロシアの書店の「古典文学」コーナーに行けば作品は必ず見つかる。トルストイの肖像、名句、名称はどこでも見ることができる。
「だが注意深く見てみると、多数重版されているのは、『戦争と平和』、 『アンナ・カレーニナ』、『復活』、三部作『幼年時代』、『少年時代』、『青年時代』、『ハジ・ムラート』といった有名な5~7作品に限られていることに気づく。トル ストイの作品の80%強が読まれていないことになる」と、「ヤースナヤ・ポリャーナ」研究室のガリーナ・アレクセエワ副室長は話す。
トルストイが教会から破門されるきっかけとなった、世界的に有名な論文「わが信仰」などの、反教会をテーマとした作品についてもここで 触れておくべきだろう。驚くべきことに、「わが信仰」はペレストロイカ以降20年間、他のトルストイの反教会、政治、哲学などの評論と同様、ロシアでは、ごく少数の例外をのぞき、出版されなかった。
このような事情もあり、「トルストイ全著作をワンクリック」プロジェクトは、トルストイを評価する人々が人気作品以外のすべての作品を読めるようにと、立ち上げられた。ボランティアも、公開される作品の多くを、それまでに読んでいなかったことを認めた。
当分は90巻全集が唯一のソース
今回デジタル化されたのが、ソ連時代に出版された、イデオロギー的な評論を含む作品集90巻であることを、古くておかしいと感じるかもしれない。
ロシアでは10年前、トルストイの新たな作品集全100巻をつくる作業が、マクシム・ゴーリキー世界文学研究所によって始められたが、今のところ、10巻しかできて いない。今回のプロジェクトの参加者はこう冗談を言う。「ゴーリキー研究所は無理に急ぐことない。100巻が出版される頃には我々が年老いてるだけ」。
90巻の電子版は、徐々にウェブサイトにアップロードされる。www.tolstoy.ruで現在読むことができるのは90巻中3巻。残りは数年以内に読めるようになる。ウェブサイトでは、科学的に調査されたトルストイの人生や作品に関する情報、写真、作品のイラスト、オーディオ・ビデオ記録などの豊富な資料も公開されている。
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