美術館の一大プロジェクトに危機

イギリスの有名な建築家、ノーマン・フォスター氏=ロイター通信撮影

イギリスの有名な建築家、ノーマン・フォスター氏=ロイター通信撮影

イギリスの有名な建築家、ノーマン・フォスター氏が、A.S.プーシキン国立造形美術館の改築と美術館村の建設のプロジェクトへの参加を辞退したことから、雲行きが怪しくなっている。

都心に15施設を統合した美術館村

  「美術館村」は、近年のロシアで最大のプロジェクトだ。モスクワ市中心部に大きな複合拠点を設けようというのが、そのコンセプト。4年前に行われたコンペで、フォスター氏の設計事務所「フォスター・アンド・パートナーズ」が優勝した。

 プロジェクトの見積額は220億ルーブル(約660億円)で、修復センター、講演会場、プーシキン美術館、展示場、地下駐車場などの15施設を統合し、 博物館の敷地面積を4万9600平方メートルから11万1500平方メートルに拡大する計画だった。だが着工しなかった。

 

ノーマン・フォスター氏が降りた原因は 

 フォスター・アンド・パートナーズは、本人がプロジェクトから降り、さらにこのプロジェクトでフォスター氏の名前をあげることも禁じたと伝えた。

 プーシキン博物館側がこの3年間、プロジェクトの展開にフォスター・アンド・パートナーズを呼ばずに、他の人を参加させていたことがその原因だ。フォスター・アンド・パートナーズ側は何度かその状況を打開しようとしてきた。

 また、資金的な問題も存在している。ロシア側のプロジェクトの調整役であるセルゲイ・トカチェンコ氏はこう話す。

 「ここ1年半ほどフォスター・アンド・ パートナーズとの仕事がかなり遅れていた。契約で定められていた、3億2000万ルーブル(約9億6000万円)のうちの1億ルーブル(約3億円)が同事務所に支払われたが、6800万ルーブル(約2億4000万円)が未払いだと同事務所は主張している」。

 

歴史的景観を損なうとの反論も 

 そもそも、誰もが諸手を挙げてこのプロジェクトを歓迎していたわけではない。というのも、フォスター氏の美しく、大がかりなプロジェクトが実現すると、 街の歴史的な景観が損なわれてしまうからだ。博物館の敷地拡大によって、中心部の歴史的な屋敷がその一部を失うことになる。

 それでも、プーシキン美術館の幹部はあきらめきれずにいる。イリーナ・アントノワ総裁は何とか実現するよう、フォスター氏に手紙を書いた。この手紙には、美術館村の運命を決めるモスクワ建築会議の会合で、多くの列席者がフォスター氏との仕事の継続を支持していたと記されている。 

 

フォスター氏の多くのプロジェクトが頓挫 

 「フォスター氏との提携関係は解消されたわけではないので、その回復を目指すというわけではありません。フォスター氏自身も美術館改築プロジェクトは非常におもしろいと言っていました。ただモスクワとサンクトペテルブルクの彼のプロジェクトが、どれも不採用になり、彼は多大なショックを受けています。残ったのは、当美術館のプロジェクトだけです」とアントノワ総裁はイズベスチヤ紙に語った。

 実現しなかったフォスター氏のプロジェクトには、モスクワ・シティの600メートルのタワー「ロシア」、 クルィムスカヤ河岸通りの商業施設「アペリシン」、モスクワ南東部の文化・商業施設「水晶島」などがある。

 

感傷旅行中? 

 マリーナ・ロシャク新館長も、フォスター氏の翻意を促したい考えだ。「うちのプロジェクトは中止になったわけではない。建築家のトカチェンコ氏もフォス ター・アンド・パートナーズに連絡を取り、継続を希望していることを伝えた。いくつかの困難を克服しなければならないものの、まだ望みはある」とイズベス チヤ紙に述べた。

 フォスター氏のコメントはまだない。広報担当者によると、本人は現在旅行中とのこと。

 

 *イズベスチヤ紙ガゼータ・ルロシア新聞ニュースル・コムの各記事を参照。

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