「予想外なことを恐れてはダメ」

マリーナ・ロシャク新館長は、現代美術とロシア・アヴァンギャルドの専門家だ。=PhotoXPress撮影

マリーナ・ロシャク新館長は、現代美術とロシア・アヴァンギャルドの専門家だ。=PhotoXPress撮影

A.S.プーシキン国立造形美術館のマリーナ・ロシャク館長に、ロシアNOWが独占インタビューを行った。 半世紀あまり館長を務めてきたイリーナ・アントノワ氏(91)がその座を退き、7月10日、ロシャク氏が新館長に就任した。この美術館は、特に印象派、ポスト印象派のコレクションで世界的に知られる。

「意見・要望を大切に」 

 マリーナ・ロシャク新館長は、プーシキン美術館を半世紀以上運営してきたイリーナ・アントノワ元館長とは異なる考え方と観点を持つ、別の世代の人だ。

 「館長に就任する前にまず、フェイスブックで『何を変えるべきか』という質問をしました。すると、詳細な提案や現状の分析など、感動的な回答が送られてきました。このような意見や要望は、他の伝統的な美術館と同様、プーシキン美術館にも不足していると思 います。この美術館は特別です。教育プログラムや優れたレプリカなどすべてが融合し、見事な展示となっています。ただ今よりも現代的かつ現実的にするに は、まず明確なステップが必要になってきます。来館者に対して開放的で親しみやすく、また便利な美術館は、現代の美術館にとってとても重要なポイントです。美術館員にありがちな、お高くとまった姿勢ではなく、美術館はすべての人のためにあるということを理解しなければなりません。芸術をよく知る、特別な高等教育を受けた人のためにあるわけではないのです」。

 

「歴史と現代を結びつける」 

 ロシャク新館長は、現代美術とロシア・アヴァンギャルドの専門家だ。ルネッサンスや19世紀の絵画の特別なコレクションを所蔵する、学術美術館の責任者という役職 とは、いささかイメージが合わない。だがアヴァンギャルド自体も最新の芸術というわけでもない。プーシキン美術館とほぼ同じ長さの歴史を持っている。

 「現代美術館には実験的な運営の期間がありますが、当美術館はそういうタイプの美術館とは違います。ここにある作品は、歴史に名を残した芸術家によるもので、美術館の展示品として既に揺るぎない価値を獲得しています。でも私は、歴史と芸術を関連づけるさまざまなアイデアが合流するこの時代にあって、現代のキュレーターたちが進もうとする道が好きなのです。とくにジャン・ユベール・マルタン氏が好きです。マルタン氏のもとでは、古い美術と現代美術が共存し、接触しながら相互作用していま す。これは驚くほど効果的で、人はすぐに全体像をつかみ、世界を一望できるのです。プーシキン美術館は応用のきく美術館です。このような 場所で予想外なことに遭遇するのを恐れる必要はありません」。

 

「現代化するが保存もする」 

 ロシャク新館長は、精力的で、現代的な視点を持っているが、過激な変化を起こそうとはしていない。

 「確かに私のこれまでの美術館の仕事はより開放的で、展示や美術の紹介は柔軟でした。フットワークの軽さと迅速な反応を支持する民間の機構と、たくさん仕事をしてきました。でも、ここにはまったく違う歴 史があり、私はそれを理解しようと努めており、非常に慎重に活動することになります。大改築も予定されています。近い将来大きな美術館街が 建設されるので、そのコンセプトを理解し、修正していく必要があります。これによって当美術館の将来が決まるのです。まず何よりも、保管レベルや電子カタ ログの作成など、現代化が必要なのは間違いありません。インターネット美術館なしに、新たな交流は生まれません。ですが形態を変えながら、アントノワさん が『源の遺伝子』と呼んだ魂を残すことが重要です」。

 

「決定は国が行う」 

 ロシャク氏が新館長に任命される直前、1948年に閉鎖された新西欧美術館の再建をめぐって、エルミタージュ美術館とプーシキン美術館の間に論争が生じ、世間の注目を浴びた。当時選りすぐりの印象派のコレクションの一部が、エルミタージュとプーシキンに収められたが、アントノワ元館長はこのコレクショ ンをまとめて新西欧美術館に所蔵してはどうかと提案したのだ。プーチン大統領とメジンスキー文化相はその後、新西欧美術館が再建され、所蔵品が移動することはないと正式に発表し、騒動は落ち着いた。これについてのロシャク新館長の立場は、アントノワ元館長ほど急進的ではない。

 「このような美術館があったら 素敵だなと思います。そうなればモスクワは西方モダニズムを理解する人々のメッカとなるでしょう。これは量ではなく、質において、比類なきコレクションで す。非常に優れた質の作品なのです。アントノワさんにとってこれは夢ですし、よく理解できます。ですがエルミタージュ美術館が所蔵品を手放したくないと思 う気持ちも理解できます。美術館の館長なら誰でも、価値ある作品を手放したくないのです。この問題は最終的に、国家文化発展戦略の責任者である、文化省の大臣、大統領、首相が解決すべきでしょう。美術館はここでは、あくまでも専門家の役割しか果たしませんから。美術館の価値ある作品の返還についてもそうで す。プーシキン美術館にはたくさんの戦利品があることは有名ですが、これは国の問題で、博物館の問題ではありません。この問題でもっとも重要なのは、最大 限のオープンさを保つ、できるだけたくさんの展示会をひらく、隠しごとをせずにすべて見せる、記述する、誰もがこれらの絵を見ることができるようにすることだと思います」。

 

カルチャー・カレンダー:

プーシキン美術館展 フランス絵画300年

「美術品の横流しなど起らない」 

 プーシキン美術館の館長が交代したことは、芸術社会にショックを与えた。おかしな人々が入りこんで、国の高価な芸術的財産が横流しされることになるので はないかといった噂まで流れた。これらの噂に、ロシャク新館長は毅然と答えた。「不安定さを感じて、変化に確信を持てない人がいるのは当然のことです。 ですが、これは現実とはまったく違っています。誰かが国の資産を利用して、価値ある所蔵品を横流しするなんて、馬鹿げています。美術館館長として、心配し ている人々にはっきり申し上げます。そのようなことは起こりません」。

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