「生神女の働き」 (1931)、ニコライ・リョーリフ
1990年代から「新ロシア人」たちが買い漁り
ロシアの美術品を専門的に扱った競売は、クリスティーズやサザビーズなどの世界最大のオークション・ハウスで、1980年代から行われている。当初はロシア系移民のコレクションから出品されるだけで、競売は定期的に行われていなかったし、収益も低かったが、1990年代に入ると「新ロシア人」たちが芸術 的価値に関係なく、手当たりしだいに購入するようになっていった。さらに時代が進むと、買い手はより多くの情報を得るようになり、来歴や芸術的価値についての要求も高めていった。
当初から人気だったアイヴァゾフスキーやファベルジェ以外にも、1920年代や1930年代、また1970年代のアンダーグラウンドの作品などが登場するようになった。
「コンスタンティノープルとボスポラス海峡の景色」、アイヴァゾフスキー
人気上昇とともにニセモノも増える
一方で1990年代、ロシア・モダンやロシア・アヴァンギャルドの市場は、突然消滅した。収集家兼専門家のヴァレリー・ドゥダコフ氏によると、有名な芸術家の作品の偽物が出回ったためだという。
最近大騒動となった偽物は、クリスティーズが2005年、銀行家ヴィクトル・ヴェクセリベルグ氏に290万ドル(約2億9000万円)で売却した、クス トーディエフの「室内の裸婦」(1919)で、ロシア連邦文化省が発行する偽物目録には2009年に加えられた。イギリスの裁判所は2010年、クリスティーズに返金が求められた裁判で、「クストーディエフの作品ではない可能性が高い」と認めた。
もっとも偽物が多いのはアイヴァゾフスキーだ。本人の計算では、作品数は5000点以下だが、市場にはその10倍の作品が存在する。平均100万ドル (約1億円)で扱われるアイヴァゾフスキーの絵画だが、もっとも高値がついたのは「コンスタンティノープルとボスポラス海峡の景色」で、2012年にサザビーズで520万ドル(約5億2000万円)で売却されている。
史上最高額のロシアの美術品は、ボナムズで今年6月に1200万ドル(約12億円)で売却された、ニコライ・リョーリフの「生神女の働き」 (1931)。リョーリフはこの三連作の一部に、「全人類の救世主、普遍的な聖母の姿を描く」よう努めたと、リョーリフ・センターは伝えている。
二番目に 高額な作品は、マクドゥーガルで2010年12月に1085万ドル(約10億8500万円)で売却された、ニコライ・フェシンの「小さなカウボーイ」。このオークション以降、フェシンの作品の価格は高騰した。
三番目は、クリスティーズで2012年6月に742万ドル(約7億4200万円)で売却された、イリヤ・レーピンの「パリのカフェ」。四番目は、同じくクリスティーズで2007年6月に733万ドル(約7億3300万円)で売却された、コンスタンチ ン・ソモフの「虹」。
「パリのカフェ」、イリヤ・レーピン
新興財閥が“自衛策”
ナターリヤ・ゴンチャローワの数多くの偽物と、競売から外されたミハイル・ラリオーノフの作品について知ったアルファ銀行のピョートル・アーヴェン頭取は、本物の遺産を偽物から守るため、ゴンチャローワとラリオーノフの芸術財団の創設を発表した。有名な作品を鑑定し、解題目録を発行することが財団の目的 である。
かつてロシアに存在していた「インコムバンク」の利用者は1993年、カジミール・マレーヴィチの「黒の正方形」の献呈版を担保にした。1998年にこの銀行が破たんした際、債権者との和議では、この作品が主要な財産となった。
偽物がもたらすのは悪影響だけのようだが、偽物騒ぎは、ロシア美術への関心を高める。サザビーズは2000年代初めから、ロンドンだけでなく、ニューヨークでもロシアの美術品のオークションを開催し、高まる需要に応えている。
最大規模のオークション「ロシア美術週間」は、ロンドンで年2回、5月と11月に行われる。クリスティーズ、サザビーズ、ボナムズ、マクドゥーガルの4 大オークション・ハウスは、美術館レベルの質の絵画から、比較的安いグラフィックや装飾・応用美術の異なる作品まで、幅広い選択肢を提供している。
今年の記録的な落札金額や、ここ数年でオークションで売却された最高額作品ランキングは、経済不況をものともしない、市場におけるロシア美術の確固たる地位と大きな可能性を示している。
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