竹内さんは、テルミン演奏を日本に普及させるにあたり、特別な道を探ったと思いますが、マトリョミンの特徴は何にありますか。
私は演奏者としてテルミンのインターフェース性、表現力に心から魅せられているのですが、普及させるには何かしらポップカルチャーとしての性格を与え、興味の間口を広げることが必要かなと考え、マトリョミンを発案しました。
私はもともと大学で音楽とテクノロジーの融合である”音楽工学”を専攻しておりまして、マトリョーシカが優れた共鳴体になり得ることは直感的に分かりました。発音体は小さなスピーカーですが、それをマトリョーシカのボディで共鳴することで、豊かな音色を得ています。人の声や、ギター、バイオリンと同じ音作りのプロセスであり、マトリョーシカの個体差が音色の違いを生むことも、アコースティック的であると、ユーザーには好意的に受け入れられています。
マトリョミンアンサンブル’’Mable’’(マーブル)ライブ
テルミンは誰でも弾けますか。
テルミンは演奏法習得が難しいから普及しないと云われてきましたが、簡単に弾けるような工夫(実際可能です)を施したのでは、テルミン演奏のおもしろさの本質が損なわれ、真の意味でテルミンを普及させることにはならないからです。電気や電子の力を用いたインターフェースの中で、使う側に高みを求めてくるものはたぶんテルミンだけだと思います。
だからこだわったのは、テルミンを”易しく”弾けるようには決してしない、という点でした。
上手な人が弾けば天使の歌声のようですが、そうでない人が弾けばとても聞いていられません。良い音色を得たいなら練習を重ね演奏動作を洗練させ、音楽性を己の中に育むしか術はないのです。そのインターフェースの正直さは時に残酷ですらありますが、その嘘のない関係性に、オートマチックが隅々まで浸透した現代だからこそ、人は希望を見いだすのかもしれません。
テルミンは日本で人気であるのでしょうか。
優秀な弟子にも多く恵まれ、また彼らが求める者に教え、テルミン博士に始まる系譜は、ここ日本で豊かに育っています。世界の中で日本ほどテルミン演奏者人口が多く、また層が厚い国は他にありません。
2007年に学研から発行されたブック「大人の科学マガジン:テルミン」の号は、22万部を超す部数を発行し、その数字は日本においていかに潜在的にテルミンに関心がある人が多いかを物語っています。
7月20日(土)に皆様の本拠地である、浜松市(静岡県)で予定されている世界記録挑戦はどういうイベントですか。
マトリョミンは基本的に都市部に住む30-50歳代の女性に支持されており、首都圏にもっともユーザーが多いのですが、この日は全国各地から浜松に集まってもらいます。
今回のイベントは、マトリョミンが量産開始されてから10周年の記念であり、それを祝うのと同時に、10年かけて励み、独自のカルチャーを育て、その結果として得られる”音”でもって偉大な記録を打ち立てようとするものです。
ちなみに私がロシアに渡りテルミンに取り組み始めたのが1993年で、私にとって今年は20周年、テルミン博士没後20年でもあります。私がテルミンを始めた頃、テルミン奏者など日本には皆無で、草木も生えない荒野のようでしたが、20年やってきて、テルミンを共に楽しむ仲間がこんなにも増え、こんなに豊かな状況になろうとは、願ってこそおりましたが、本当にそうなるとは考えられませんでした。
この日本における成果を、私にテルミンを正しく教え、導いてくださったリディア・カヴィナ先生、そして天国のテルミン博士に報告できることを嬉しく思います。
7/20に浜松で実施予定の”マトリョミン合奏でギネス世界記録™に挑戦”は、一般の方は会場でご観覧いただけません。
インターネット配信Ustreamのプラットフォームにて生配信が10:30(日本標準時間)頃から実施されます。