消滅危機にひんする言語

ダゲスタンのボトリフ村。6000人ほどのボトリフ人のうち、ボトリフ語を話せる人は約200人まで減ってしまった。 =セルゲイ・ピャタコフ/ロシア通信撮影

ダゲスタンのボトリフ村。6000人ほどのボトリフ人のうち、ボトリフ語を話せる人は約200人まで減ってしまった。 =セルゲイ・ピャタコフ/ロシア通信撮影

ロシアには、1.5億人の話者がいるロシア語や、かろうじて1000人ほどの話者がいるケット語など、約250言語が存在する。だがロシア語と一部テュルク語以外の言語は、消滅が危ぶまれている。

 ロシアの言語は、不可解なロシア人の心と同様、この国の不思議である。

 ロシア語自体がまず不思議な現象を生んでいる。ヨーロッパ有数の文学が、記録的な期間で生まれている。西ヨーロッパとは異なる独自の散文が登場してから、最初の発達したモダニズム文学が出版されるまで、わずか100年強しかかかっていないのだ。このわずかな期間には、トルストイやドストエフスキーやチェーホフなどの世界的文豪がいる。英語文学を発達させたアメリカでさえ、これほどのスピードではない。

 

多数民族の言語は安泰だが 

 ロシア語は出版物が多く、その教育が行われ、外国で関心を持たれているなど、発達している言語であるため、将来は安泰だろう。

 同じく安心していいのが、タタール人、バシキール人、チュヴァシ人といった、ロシアの多数民族のテュルク諸語である。

ロシア連邦最大のサハ共和国に暮らす、約50万人のヤクート人も、テュルク語であるサハ語の消滅を懸念する必要はないだろう。サハ共和国では、サハ語の本が出版され、初中等教育機関や高等教育機関で教えられ、さまざまなマスコミで使われ、民族学者や言語学者によって活発に研究されている。

 

言語とともに消滅していく少数民族 

 これが少数民族の言語となると、話は変わってくる。これはロシアに限らず、世界で起こっている現象だろう。多くの場合、厳しい気候条件が言語の維持に悪影響を及ぼす。

 ロシアは北極圏国家で、大部分がアマゾンのジャングルのように人が入りにくく、タイガやツンドラに覆われている極寒の地域だ。こういった場所では、文字のない言語で会話をする種族が、厳しい生活を送るようになった。

 これらの遊牧民は、特別な食事、またアルコールや多くの人にとって無害なウィルスへの耐性のなさなどにより、都会の文明生活になじめないため、むやみに都市へと移住させることはできない。もうひとつの言語の消滅の原因は、地元民との平和的な同化だ。

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実態把握の難しさ 

 ロシアに存在する正確な言語の数は明らかになっていないが、2010年の調査によると、約250言語だという。数を明確にできない理由は二つある。

 一つ目は物質的理由だ。以前調査した「X」族の居住地に再調査に行こうとしている間に、「X」語の話者が同語源語「Y」語の話者に変わっていたり、絶滅していたりと、状況が変わりやすい。

 二つ目は理論的理由だ。多くの言語が最初は独立言語となっているが、その後方言が生まれ、その方言がさらに独立言語となる。2010年の調査でもっとも人口の少なかった民族は、チュクチ自治管区のケレク人で、わずか4人しかいなかった。

 

文字のない言語は危機的状況 

 北方、シベリア、極東の少数先住民族を、国家は優遇している。それらの民族の若者は兵役を免除され、狩人や漁師は税金を免除される。

 だが文字のない言語の話者が暮らす地域では、極めて危機的な状況が見られる。それは北コーカサスのダゲスタンだ。中世のアラブ人はコーカサスを言語の山と呼んだほどで、比較的小さな、人の入りやすい領域に約50言語が存在する。

 このテロと失業に悩む共和国の憲法によれば、すべての言語が公式言語とみなされているが、実際にはロシア語を含む、文字のある14言語しか、公式言語として機能していない。他の言語の話者(小さな村や集落などの居住者)は、より強大な民族(もっとも人口が多いのはアヴァール人)に併合されていくのが一般的傾向で、これらの人々に対する税金や文化などの優遇措置はない。

 地元政府は本格的な言語消滅対策を講じていないが、ダゲスタンのボトリフ村では、ボトリフ人と北東コーカサス語族のボトリフ語の文化的自治を認めるよう、さまざまな集会が行われ、請願書が提出されてきたのに、依然としてボトリフ人はアヴァール人として数えられている。その結果、6000人ほどのボトリフ人のうち、ボトリフ語を話せる人は約200人まで減ってしまった。

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