写真提供:NASA
火星の条件をリアルにシミュレーション
モスクワ大学土壌学部のエレーナ・ヴォロビヨワ上級科学研究員は、実験についてこう説明した。「火星の状態をできるだけリアルにシミュレーションしました。A.F.ヨッフェ物理工学研究所で、火星のパラメータに合わせた特別な人工気候室をつくり、乾燥土壌や南極土壌で採集した微生物のサンプルを置きました。その結果、高濃度の酸化剤、放射線、低圧、温度といった火星の条件に、これらの微生物が順応し、長く生息できることがわかりました」。
これまでもさまざまな学者の集団が、過酷な条件が微生物に及ぼす影響について研究しているが、個別のコロニーではなく、微生物群集をまるごと用いているところが、この新しい実験のポイントだ。「自動車がどのようにして進むかを知るためには、個別の部品ではなく、1台まるごとを研究する必要があります」とヴォロビヨワ上級科学研究員。
低圧、高放射線量、-50℃~+50℃で生き延びる
微生物群集は、1トール以下の低圧、25ミリラドの高放射線量で、-50℃から+50℃の温度という条件下で生き延びた。これまで殺菌線量と考えられていた放射線量でも、酸性度の臨界負荷でも死滅しない。研究者は、群集ではなく、個別の微生物培養だったら生き延びることができなかった、と考えている。一部の微生物が代謝機能や生殖機能を維持していたということも興味深い。
この実験には火星で発見された物質も用いられ、火星の土壌が生命に有害なわけではなく、土壌の放射線は微生物が耐えられるものであることが証明された。
1970年代にNASAがバイキング計画を行った時点で、火星の土壌に過塩素酸塩が高い割合で含まれていることが推測されていた。モスクワ大学の研究者は現在、人工気候室で放射線量を上げ、限界値を見つけようとしている。ヴォロビヨワ上級科学研究員は、今年中にこの作業を終えるとしている。
代謝を止め復活を待つ
この実験は研究者の間では知られている。ロシア科学アカデミー土壌学物理化学・生物問題研究所の教授で、著名な研究者であるダヴィド・ギリチンスキー氏は、過酷な条件に適応できる微生物を見つけるため、北極と南極を積極的に調査していたが、この実験は同氏の研究を引き継いでいる。
ロシア科学アカデミー土壌学物理化学・生物問題研究所土壌微生物学実験所のタチヤナ・デムキナ上級科学研究員はこう話す。
「微生物はあらゆる条件に素早く順応します。永久凍土の中では静止期に入りますし、数百万年前の自分の状態を保つためのメカニズムをすべてそろえています。微生物は代謝を著しく遅らせ、その細胞には凍死しないための保護物質があります。少しでも条件が良くなると、代謝が活発になり、生活に戻るのです」。
細胞もまた、好条件にも悪条件にも素早く適応する。培養液に浸すと、それまであった厳しい条件下で生き延びるための、自分のすべての特性をすぐに失う。
そのため研究者は、数百万年間「密封状態」にありながら生存能力を維持する、地球では珍しい細胞が実験に適していると考えている。
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