キリル・カリニコフ撮影/ロシア通信
観客約700人が人質に
2002年、10月23日(水曜日)、21時15分、モスクワ都心のドブロフカ通りにある劇場に、覆面を被った武装勢力42名が乱入した。この劇場は、ミュージカル「ノルド・オスト」(原作はヴェニアミン・カヴェーリンの『二人のキャプテン』)をもっぱら上演している専用劇場で、この夜は700人以上の観客がいたが、彼らはほとんど人質となり、劇場には地雷が敷設された。
同夜22時には、劇場を占拠したのは、モヴサル・バラエフ率いるチェチェン武装勢力で、女性の自爆テロリストも含まれていることが判明した。
チェチェン共和国からの連邦軍撤退を要求
翌24日(木曜日)19時には、カタールの衛星テレビ局「アルジャジーラ」が、占拠の数日前に撮影された、バラエフのアピールを放映した。そのなかでバラエフは、自分たちは自爆テロリストであり、チェチェン共和国からの連邦軍撤退を要求すると述べていた。
人質たちは衰弱がひどく、食糧と飲料水を差し入れるための交渉が、19時から深夜まで続けられたが、武装勢力は応じなかった。
ようやく25日(金曜日)深夜1時に、救急医療センターの医師レオニード・ロシャールが、武装勢力との交渉のすえ、人質に医薬品を持参して応急措置を施すことができた。
25日朝には、劇場のそばで、人質の近親者が集会を行い、武装勢力の要求をのんで連邦軍を撤退させるよう要求しはじめた。
一方、プーチン大統領は、同日15時に内務省と連邦保安庁の幹部を集め、対策を協議した。
突入作戦
26日(土曜日)早朝、5時30分に、劇場付近で3つの爆発音と自動小銃の銃声が聞こえた。
6時ころ、スペツナズ(特殊部隊)が劇場に突入し、武装勢力を無力化するために特殊なガスを使用した。武装勢力(男性32名、女性18名)のほとんどはガスで昏睡状態に陥ったところを射殺されている。
11月7日、モスクワ市の検察当局は、一般市民の死者を128名と発表した(うち8名は外国人)。
人質の死者のうち、突入作戦に際して銃撃で死亡したのは5名だけで、残りは解放後に死んでいる。そのため、ガスが非致死性であったか、ガス使用後の手当てが適切だったか否かなどをめぐり、問題となった(ガスの成分は公開されていない)。
この点に関して、プーチン大統領は翌2003年9月に、「犠牲者はガスのために亡くなったのではなく、脱水症状、持病、心理的ストレスなどの複合的要因で死亡した」と記者団に語っている。
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