工藤丈輝さんの圧倒的な舞踏

モスクワにある「民族劇場」で、フェスティバル「テリトリヤ(領域)」の一環として、フィリップ・グリゴリヤンさんが演出したマルチメディア音楽パフォーマンス「ポルノルニエ(満月)」が開催された。圧巻は、舞踏家の工藤丈輝さんによる即興ダンスで、全プログラムの4分の3を占めた。

「満月」は2部にわかれ、マルチメディアは主に第1部に集中している。指揮者のフョードル・レドニョフさんが率いるオーケストラは、アレクセイ・スィソエフの極めて“アヴァンギャルドな”音楽を奏でる。

歌手のナタリヤ・プシェニチニコワさんは、男性の衣装を来て、紙でつくられた雄鶏のとさかを頭にのせ、大きな巻物を手に持って、それを声を出してフレーズごとを読みあげながら、白い台の階段部分を移動する。舞台の背景で黒いシルエットをぴたりと止めたり、階段に座ったりしながら、プシェニチニコワさんは、小さな声でボソボソ行ったり、マイクで何倍にも響く大きな叫び声を断続的にあげたりして、マニフェストのテーゼを述べる。背景では三角、線、丸が大都市の上方へと動いていく。

すの子から、炭坑夫のヘルメットをかぶり、労働者を演じる俳優が空の箱を下ろしている。これらはすべて、グリゴリヤンさんが20世紀を擬人化しているのだとか。こう言っちゃなんだが、ストラヴィンスキーの音楽か、メルセデス・ベンツ車のほうが、ずっとうまくこの時代を表現できるはずだ、などと思ってしまった。

生物進化と終末を表現 

幸い、20世紀はわずか20分で終わり、“労働者たち”は舞台に落ち葉を撒き散らす。そして、日本人の舞踏家が即興ダンスを始める…。これに比べると、グリゴリヤン監督の“新演出”は児戯に等しく見えてくる。

グレーがかった粘土を体に塗り、頭から足まで包帯で巻かれた工藤さんは、回転した宇宙船から出てくるように、箱の丸い穴からころげ落ちる。大きなミミズのように、階段の一段一段で変化してみせながら、エプロンステージに向ってはって行く。これはダーウィンの学説の生きたイラストだった。

「ミミズ」は脊椎を手に入れ、手足を取り戻し、後ろ足で恐竜「ティラノザウルス」が起き上がり、手の蝶はひらひらと舞い、柔軟な体でピューマが戯れ、よろよろとオランウータンが走り、ついに、人間が、包帯から解放されて、均整と調和のとれた姿で現れ、月に祈りを掲げる(背景のプロジェクターの動画では、月が、果てしなく広いステップを動いていく。ステップには電線が走っている)。

やがて、この人間は消え去ろうとする…。と、角とひずめのある、一角獣風の動物が見にやってくるという趣向。こういうあざとさは、背景の動画もそうだが、工藤さんの魔法のような七変化から目をそらせるので、見ていてイライラした。

工藤さんは、舞踏のシャーマンの秘密を正しく保持する数少ない一人だ。彼は、自分を「捨て去って」、空の入れ物に変わり、神であろうと、ミミズであろうと、そのなかに入れることができる。

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