ボニーM がロシアでずっと人気があるわけ

70年代のスターで、かつてはロックの怪物にして若者のアイドルだったが、いまや年金生活者―。そんなグループのいくつかは、ほとんどロシアに“居住登録”しているといってもいいくらい、主にロシアでコンサートをしている。なるほど、ロシア人だって、もっと現代的な、生きのいい音楽を聴きたくないわけじゃないが、地方都市がアーティストの要求をみたすのはなかなか難しいのだ。

ロシアの音楽市場にはいくつかの特異な点がある。1991年まで、ロシアは世界文化から事実上閉ざされていたので、ソ連でレコードを出してもらえたごく少数のグループが、いまだに旧ソ連圏全域で、抜群の知名度と人気を保っていることだ。

ボニーM (Boney M)も、そうした例外の一つ。彼らの歌は、ソ連のディスコで、のべつ幕なしに流され、ソビエト市民は、自由な西側の空気をむさぼり吸い込んだ。これで、このグループの、旧ソ連圏での生涯にわたる成功が保証されたわけだ。


ボニーM、1978年=タス通信撮影

懐メロ・コンサート 

ボニーMのメンバーは、2010年に死んだボビー・ファレルをのぞき、いっしょにロシアの広大な大地を回って、なつかしのヒット曲を奏でている。彼らは地方でも無数のコンサートを行っているが、金持ちの企業家のために、非公開のコンサートをすることが多い。モスクワやサンクトペテルブルクに出演することはあまりなく、出るとしたら、「80年代のディスコ」という懐メロの体裁でだ。

この手の懐メロ・コンサートはふつう大ステージで催され、C.С. Cach、Pupo、ゾディアック(Zodiac)、Bad Boys Blueなどの往年のスターが登場するのが常だ。

こういう80年代のポップだけでなく、一連のロック・グループにとっても、ロシアはいまや第二のふるさととなっている。

たとえば、アメリカのブラザヴィル(Brazzaville)とBloodhound Gangは、ロシア以外ではほとんど演奏していない。老舗のScorpions、アイアン・メイデン(Iron Maiden)、ユーライア・ヒープ(Uriah Heep)、それにドイツのUdoなども、ロシアではいつでも歓迎だ。これらのグループは、2大都市だけでなく、地方巡業にも積極的。

「なんでポールなんだ?」 

かつてポール・マッカートニーがなぜソ連に入れてもらえなかったかについては、小話がある。ブレジネフ書記長が「なんでポールなんだ?全部入れてやればいいじゃないか」と言ったとか。

ロシア語でポールは「半分」の意味だから、ポール・マッカートニーは、「マッカートニーの半分」ということになる。

エルトン・ジョンはその点もっとついていた。関係者のとてつもない努力のおかげで、1979年に彼をソ連に連れてくることができ、モスクワとレニングラードでいくつかのコンサートが開かれたのだ。

興行を仕切っていた「ゴス・コンツェルト」の高官がみずからイギリスにおもむき、エルトン・ジョンのコンサートを聞いて、共産主義国家に対してイデオロギー上の脅威をおよぼさないと確信したと言われている。

落ち目になると来る? 

なるほど、「鉄のカーテン」はとっくの昔からないが、トップクラスのグループは、世界ツアーでも、いつもロシアにやって来るわけではない。レディオヘッド(Radiohead)は、ファンがずっと首を長くして待っているが、まだ来ない。U2も、2010年に一度だけ、世界ツアー(360 Degree Tour)でモスクワを訪れただけだ。

以前、ロシアの音楽ファンは、トップスターがロシアに来るのは落ち目になったときだ、と自虐的なジョークを飛ばしていた。この冗談はまんざらウソでもない。メタリカ(Metallica)は、91年にソ連で初コンサートを行ったが、次にロシアに来たのは、16年も経った2007年のことで、もうそのときは、とくにだれも待ってはいなかった。もっとも、もう昔のメタリカじゃないよ、という評にもかかわらず、大入り満員となったが。

難しい地方公演 

しかし、ロシア最大の予約代理店のひとつであるNCАグループ社長、ミハイル・シュルイギン氏は別の意見だ。

「ロシアには、新しいアルバムを出している、生きのいいアーティストもたくさん来てますよ。世界中を回って、ロシアも訪れています。最近だけでも、Red Hot Chili Peppers、MUSE、30 Secоnds to Mars、リンキンパーク(Linkin Park)というぐあいです」。

なるほど、モスクワとサンクトペテルブルクは、トップスターのご愛顧をかたじけなくしているかもしれないが、地方となると話は別で、とてもこんなにたくさんのコンサートはない。理由は、何といっても遠いし、アーティスト側の条件を満たすのが難しいことだ。それに、外国の文化や流行にする知識や関心は、地方ではずっと低いので、プロモーターにとっても、わざわざ地方都市にまでアーティストを連れて来ても、あまり利益にならない。地方では、ロシアのポップスのほうがずっと人気があるのだ。

とはいえ、公正を期して言っておくと、状況はそれほど暗いわけでもなく、ロシアの“奥地”を訪れるスターもなかにはいる。マドンナやRed Hot Chili Peppersは、モスクワどまりだったが、スティング(Sting)、Guano Apes、コーン(Korn)などは、カザン、クラスノダール、エカテリンブルクなどに行っている。

良い音楽は、ウラルやシベリアのファンだって、もちろん聞きたい。でも、赤字を出さずに連れて来るのは難しいのだ。