新型「ジル」登場

ロシア最古参の自動車メーカー、「ジル(ZIL)」モスクワ工場は、政府要人用リムジンの試作品を製造した。外車ばかりのロシア高官の車列が変わってくれれば、と開発者は期待する。プーチン大統領は目下のところ、メルセデス・ベンツS600プルマン・ガードで移動している。

=アウト・ベスチー・ルー、エカテリーナ・ルジャニナ撮影

まもなく走行試験

ロシア連邦産業貿易省と他の省庁は、要人向けの国産リムジン製造プロジェクトについて、活発に意見交換を行っている。専門家は、リムジンの開発に10億ユーロ(約1000億円)かかると試算しつつも、プロジェクトの将来性について懐疑的な見方をしている。しかしながら、「イズベスチヤ」紙によると、「ジル」はすでに自動車整備会社の「デポ・ジル(DEPO-ZIL)」と共同で、リムジンの試作品製造を完了している。また、開発者によれば、10億ユーロよりはるかに安くできたという。

ロシア製リムジンの歴史

ソ連政府の要人向けに、ロシア製自動車が開発されるようになったのは1930年代で、それまで高官は外車で移動していた。初のソ連製Fセグメントと言われる車は、7人乗りのリムジンZIS-101(ジス社製)。1950年代にかけて、政府関係者の外車は完全に国産車と入れ替わったが、実際にはそれらの車すべては、Fセグメント車よりも下のセグメントに属する車である。ソ連初の本物の最高級車は、1959年から製造されるようになったGAS-13「チャイカ」(ガス社製)だ。1970年代にかけて、高官は「ジル」に乗るようになった。ソ連リムジンの時代は、ロシア市場にメルセデスなどのより競争力の高い西側の自動車が入ってくるようになった、ソ連崩壊前後に、終焉を迎えた。

このプロジェクトは、2年前にドミトリー・メドベージェフ大統領(当時)が指令を出したものだが、「デポ・ジル」のセルゲイ・ソコロフ業務執行取締役によると、2004年にはすでに始まっていて、リムジンの車体の設計案や、5分の1の技術モデルが当時つくられていた。「モノリト(一枚岩)」と名づけられたこのプロジェクトの作業は、途中何度か中断したものの、今年完了することができた。近い将来、ドミトロフスキー自動車試験場で走行試験を行い、当該省庁で認証を受けることとなる。

ジルといえば要人をイメージ

ソ連時代、「ジル」は政府高官用リムジンを製造していたため、現在でもソ連時代を知る世代は、その車の外観を見ると、高官をイメージする。ソコロフ氏によると、今回のプロジェクトを進める中で、ブレジネフ、ゴルバチョフ、エリツィンらが乗っていた、「ジル」リムジンのクラシック・スタイルを継承した新車を披露しようと、開発者は意気込んでいたものの、今回のリムジンには以前の部品をほとんど使用していないという。

ソ連のリムジンは長距離移動専用で、ソ連の要人が道路を走る際にはその道の信号が止められていたために、信号待ちの停車が想定されていないなど、走行の質の面で非常に特殊な車だった。また、運転が難しく、運転手は特別な教習を受けなければならなかった。新しいリムジンでは、そういった特殊性が排除されている。

ソ連時代とどこが変わったか

開発者はまず、エンジンの方式をキャブレターからインジェクターに変え、排気量7.7Lのまま、出力を315馬力から400馬力に向上させた。また、3速のマニュアル・トランスミッションを、5速のオートマチック・トランスミッションに変えたが、サスペンションには手を加えていない。

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ホイールの直径は、これまでより大きい18インチになった。従来型「ジル」リムジンの16インチ・ホイールに合う、特別なタイヤ「グラニト」を製造していたのは、ロシアのタイヤ・メーカー「モスクワ・タイヤ工場」のみだが、新しいリムジンの重量は3.5トンあるのに、速度はより軽量な乗用車並みの最大時速200キロなので、新リムジンに対応できるような、16インチ・ホイール用タイヤを見つけることはできなかった。「この条件に合う18インチ・ホイール用タイヤが、大型車用としてアメリカで販売されているため、それに合わせてホイールを18インチに拡大しなければならなくなった」とソコロフ氏は説明する。

Fセグメント車量産の可能性も

新しいリムジンは6ドアで、車内には対面シートが設置され、メルセデス・ベンツのプルマン風になっている。また、燃料供給システムも一新されている。

現時点では防弾仕様にはなっていないが、メーカーによると、このモデルが正式に承認され、政府との交渉が終了すれば、防弾バージョンが作られることになるという。また、要人以外の政府関係者用に、Fセグメント車を量産する可能性があることも示した。

「イズベスチヤ」紙の資料にもとづいて作成