東を向くロシア

=セルゲイ・ラニン/Primamedia通信撮影

=セルゲイ・ラニン/Primamedia通信撮影

ロシアで初めて開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会談の結果、ロシアが目論んでいる1千億ドルの“東方貿易”拡大は、実現するとすれば、エネルギーと農業が中心となることが明らかになった。

「数ヶ月前、人々はサミットが大失敗になると言っていました」。大手コンサルティング会社のPwC(プライス・ウォーターハウス・クーパース)のマネージングディレクター、デビッド・グレイ氏はサミット最終日に語った。

「テントで野宿、橋は未完成でフェリーで会場のルースキー島まで行くはめになるだろうと言われていましたが、今ではそんなことは忘れてしまいましたね」。

投資ブーム起きるか 

新たな投資プロジェクトには、マツダの現地生産スタート(APECサミット開催中の6日に、プーチン大統領が工場開所式典に出席)や、ウラジオストク郊外に日本の液化天然ガス(LNG)生産プラントを建設する契約が含まれていた。

同様の施設は、2009年にアメリカと日本の企業の提携でサハリンにオープンしている。このプロジェクトにより、サハリン州は、連邦予算への負担を軽減するだけではなく、ロシアで数少ない、連邦予算に貢献する自治体になった。

 「コストはさておき、ここウラジオストクで見られる開発は私のようなモスクワ・ベースのビジネスマンが、ロンドンやニューヨークなどにいる我々の上司に、ロシアの地方へ長期的な投資の利点について説得するのに良い材料です。今、彼らは自分の目でそれを見てきました」とグレイ氏は語る。ウラジオストクのインフラ整備には、200億ドルが投入された。

 EUAPEC

イーゴリ・シュワロフ第一副首相はオープニングセッションの一つで、サミットの主な目的をこう要約した。

「今、ウラジオストク周辺には、必要なインフラすべてが揃っています 。新しい空港、道路、鉄道、教育および医療施設。 5年以内に、我々の貿易はアジアに傾くはずで、極東地域の高い成長率を保証するはずです。 我々は、10年以内に、APEC諸国との貿易額をEUとのそれより増やしたいと考えています」。

 現在EUとの貿易額はロシアの貿易総額の約半分に相当する約3200億ドルであり、APECとのそれは、その半分以下だ。もっとも、大手 総合情報サービス会社「ブルームバーグ」がまとめた税関のデータによると、2006年以降、全体の15%から23%に増加している。
 ロシアの指導部は、EUとの関係を犠牲にしないことを強調しつつ、対APEC貿易の急速な成長を促すために、ここ数ヶ月、アジア諸国に対して自由貿易に関する提案を行っている。

 交通 

 シベリア鉄道は、北極海航路とならび、ロシアを、ヨーロッパとアジア間の主要な物流ルートにしようとするプーチンの計画の要をなしている。シベリア鉄道はすでにフル稼働し、単線であるため、線路を増設したり物流施設を沿線に建設するのに数十億ドルの投資を必要とする。

ロシアの港もまた、国の“東方貿易拡大”において、大きな役割を担っている。現在ロシアを経由して輸送される貨物の量は、1%未満だ。

最近発表された連邦政府の計画によると、年間5億4000万トンにすぎない港経由の貨物を年々増やし、2020年までに9億トンにする予定。この増加分の約半分は、太平洋側の港が負担することになっている。

しかし、ロシアの官僚制度はプーチンの目標の大きな障害となっている。シンガポールでは、貨物がたった1日で税関を通過するが、ロシアの港では2週間ほどかかることが珍しくない。

「1日の遅延により、輸出品の価格は1%下がります」とニュージーランド森林調査株式会社のトニー・ノウェル会長は指摘する。さらには、中国の海岸とカザフスタンを結ぶ鉄道も、ロシアの野心的な交通近代化計画に影を落とす。

 農業 

現在、APECで最大の8カ国だけで、年間一億トン以上の穀類を輸入している。これは、現在の市場価格で500億ドル以上に相当し、この輸入量は、ロシアの現在の生産量を上回る。

「APEC諸国は、世界の輸入穀物全体の37%~38%を占めています。それなのに、我々のシェアは、今のところゼロです」。著名な政治学者で、ロシア下院(国家会議)議員(統一ロシア)でもあるビャチェスラフ・ニコノフ氏はこう説明した。

 現在、ロシアにはアジアへ穀物を輸出するために必要な道路も、鉄道も、港もない。穀類はロシアのヨーロッパ側の港を出て、中東などの輸出先へ向かっている。

しかし、プーチン大統領は、穀物の生産を現在の年間8000万トン強から1億2千万トンに増産すると約束した。

 「極東の農業は発展しつつあります。投資がなされ、外国人がロシアの農場で働いています。シベリアと極東で働く北朝鮮の労働者の話を聞いたことがおありでしょう」とニコノフ氏は述べた。

 天然資源 

 PwC社の予測によると、アジアは、2015年までに世界最大の天然ガス市場になる。日本との70億ドルの取引(LNG生産プラント建設プロジェクト)は、ロシアがこの傾向を最大限に活用するつもりであることを示唆している。工場が生産するLNGのほとんどは、福島の災害の後、輸入を増やし、原子炉を停止している日本への輸出が想定されている。ウラジオストクのLNGプラントは2017年までにフル稼働に達すると予想される。

 最近完成した中国へのパイプライン、及びそのパイプラインの能力を拡大する計画は、欧州の消費者への依存を避け、多様化しようとしているロシアにとって、天然資源のAPECへの輸出を拡大する上で重要な役割を果たすだろう。しかし、中国と石油価格の交渉は、これまでのところ障害となっている。

 製造 

ウラジオストクで、APECサミット開催中の9月6日に、露自動車大手ソレルス社の工場でのマツダ車現地生産がスタートした。プーチン大統領は工場開所式典に出席し、このとき、地域に本格的な自動車産業を育成するための第一歩が踏み出された。

「当面、3億5000万ドルがマツダとの合弁事業に投資されます」。ソレルス社長ワジム・シュヴェツォフ氏は記者団に語った。

工場はゆくゆくは年間10万台を生産し、ソレルス社はロシア極東での日本車への信頼と人気にあやかろうと目論んでいる。過去20年間にわたり、この地域の経済のかなりの部分は中古の日本車の販売に頼ってきた。ウラジオストクで最近稼動し始めたヒュンダイ(現代)のエンジン工場は、ソレルスが求める自動車生産の地元定着が現実のものとなりつつあることを示唆している。

 「問題のすべては、適切な政策を通じて解決可能です」 

APEC期間中も、関係者や専門家は、この地域が輸出可能な製品を、近隣諸国より安く、かつより高品質に製造できるか、懐疑的な態度をとっていた。しかし、ロシアの「中小企業開発銀行」のセルゲイ・クリュコフ氏はこう述べた。

「極東で競争力のある製品を製造することを妨げる問題のすべては、適切な政策を通じて解決可能です」。

残される最大の疑問は、極東を含む、ロシア全体がどの程度、資源の輸出への依存から脱却し、付加価値の高い製品をアジアへ輸出することができるか、ということだ。

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