彼女は美術館のバーブシカ

「モーセと瀕死の奴隷」、ミケランジェロ、プーシキン西洋美術館 =アンディ・フリーベルグ撮影

「モーセと瀕死の奴隷」、ミケランジェロ、プーシキン西洋美術館 =アンディ・フリーベルグ撮影

彼女が誰であるかは不明だ。
モスクワの国立トレチャコフ美術館でY・M・エフレイノフの肖像画を監視する中年の女性が典型的であるが、その表情は、彼女が監視する絵画を見劣りさせるほど人生経験と追憶を帯びている。

来館客は彼女が醸し出す素朴でやさしい哀愁に目を奪われる。

彼女の表情を「多くの女性がもつ表情です」と語るのは、『ロシアの美術館監視員たち』という肖像写真のシリーズによりインターネット上で大評判となった写真家のアンディ・フリーベルグ氏(54歳)だ。

「彼女らがあなたのことを知らなかったら、微笑みかけてくれることはありません」と、彼は付け加えた。「微笑みは親密なものなのです」。時がたつにつれ、女性たちはフリーベルグに気を許すようになった。

しかし、表情には一定の真剣さと長年を通じて獲得した威厳がある。

これらの肖像写真は真剣ではあるが、陰気ともいえる雰囲気を帯びている。

ロシアの美術館の保護者

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時に「美術館のバーブシカ」(おばあさん)と呼ばれる監視員の写真は、普段は気づかなかった女性的な奇抜さも同時に示している。

同じくトレチャコフ美術館所蔵のレーピン作の『フォン・ヒルデンブラント男爵夫人の肖像』の前に座る女性は、年老いた男爵夫人に間違えられてもおかしくないくらいだ。

かぎ針編みのショールでズボンを覆い、とっさに塗りつけたような赤い口紅と束髪が特徴だ。

フリーベルグは、チューインガムを嚙む子供や、周囲にかまわず携帯でメッセージを書き込むティーンエイジャーから展示作品を守ろうとする監視員が、その作品の趣を醸し出すと指摘する。

「監視員の女性と美術作品が互いに似てくるような場面を探すのが面白みの一つになってくる」とフリーベルグは語る。

エルミタージュ美術館所蔵の『ベロネーゼ作の羊飼いの礼拝』の警備を担当する監視員が、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』にとても似ていることも彼が教えてくれた。

もう一人の監視員はエルミタージュ美術館で『マティスによる静物画』の前で作品の警備を担当している。

彼女の目立った渦巻き模様のセーターとプリント柄のタイツはマティスに調和するかのようで、美術館の空間とはあまり連想されることがないお祝いの雰囲気を出している。

多数の外国人コラムニストらが、これらの女性は気むずかしく、ぶっきらぼうであると書いてきた。

しかし、フリーベルグは彼女たちが監視する美術品に閲覧者が手で触れた時に発する怒りの声以上のものを見い出したのだ。

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