月への打ち上げロケット:幻と現実の狭間に

=PhotoXPress撮影

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ロシア連邦宇宙局は、月飛行計画のための重量級打ち上げ用ロケットの新たな開発競争に入っている。これは、ロシアの宇宙航空学を勢いづけると同時に、発展にブレーキをかけるものでもある。関係者間の対立を調整し、活動を安定させる国の能力が鍵になってくる。

「不動の『アンガラ』」からの脱出

新しい重量級「アンガラ」ロケットの開発については、今年中に目立ったニュースがなければ、「新しい『アンガラ』ロケットの夏の打ち上げ実験に向けて、プレセツク宇宙基地で準備が始まった」と、紋切り型で語ることができる。

現在にいたるまで、“不動の「アンガラ」”と呼ばれるにふさわしく、打ち上げ日時は、ここ10年いつも「1年半から2年後」を維持し続けている。現在、プレセツク宇宙基地では、発射設備の組立てが急ピッチで進んでいるのだから、この不動性からやっと脱出したと言えるだろう。

成功しているユニバーサル・ロケット・モジュール 

韓国の人工衛星打ち上げロケット「KSLV-1」に組み込まれている、ロシア製ロケットのURM(酸素とケロシンを燃料にしたエンジンのユニバーサル・ロケット・モジュール)のプロトタイプは、うまくいっている。これは「アンガラ」の成功を期待させる。

「KSLV-1」の2件の事故は、1件目が鼻錐体の分離時のトラブル、2件目が韓国の開発した2段目の事故で、どちらも韓国の機械がうまく作動しなかったことに起因している。

「KSLV-1」のロシアの1段目は、「アンガラ」の1段目のプロトタイプとなっており、どちらの事故の際も正しく稼働していた。また、エンジンのRD-191も正しく稼働しており(試射は今日までに優に100回以上行われている)、試験上では、エンジンは必要なパラメーターを示している。

国内のライバル「エネルギヤ」

「アンガラ」から月の打ち上げ用ロケットまでの道のりは、決して短くはない。URM系を搭載した重量級でも、低軌道に40トン以下の貨物を投入できる程度だ。これでは月飛行に不十分である。

モジュール2機が個別に発射されて、軌道上で月着陸船が組み立てられる場合でも、70トン以上の積載能力が必要となってくる。モジュール1機ならば、120トン以上だ。

このような条件は、ソ連の打ち上げ用ロケット「エネルギヤ」を思い起こさせる。「エネルギヤ」の低軌道への定格荷重は105トンに達し、設計が進められていた「ブルカン」では200トンにもなる。

ここで重要なのは、「エネルギヤ」の構成要素は、現在も有効活用されているということだ。「ゼニット」ロケットの1段目は、「エネルギヤ」のブースターとして使用されていた。

「ゼニット」はロシア製部品が大多数を占めているものの、このロケットは現在ウクライナで製造されている。

なるほど、大型プロジェクトに、政治的に信頼し難いパートナーを招くことは、あまり好ましくないが、「エネルギヤ」ロケットの製造者である宇宙企業「エネルギヤ」としては、ロシア国内での生産の拡大を図る必要がある。

「エネルギヤ」対「フルニチェフ」 

宇宙企業「エネルギヤ」とフルニチェフ・センターは、月飛行ロケットの開発を推し進めている立役者だが、この2者の対立は、プロジェクト自体を調整や競争に埋もれさせ、消滅させかねない。

しかし、月飛行ロケットの成功の鍵は、こういう余計な競争を抑え込めばいいというものではない。机上の月飛行計画の他に、肝心のロケットの定格重量を確保することだ。

未来のロケットは、低軌道、火星プロジェクト、深宇宙の調査などにも使えなければならない。さらに、宇宙技術の開発者、主だった科学研究センター、そして軍の利害を統合しなければならない。これらの関係者が関心を示せば、ロケットをつくり、その製造を正当化できるほどのまとまった資金力になるのだ。

明確な国家戦略が必要 

特殊な課題に向けての、これほどの高額なプロジェクトは、短期間しか存在できない。このこと一つをとっても、国の資金不足を理由に、実現に疑問符がつきかねない。

したがって、新しい重量級打ち上げ用ロケットの開発競争を演じるだけでなく、重量級宇宙機を軌道に投入する必要性を検討する研究開発をいくつも始めねばならないのだ。

客観的に見ると、とりあえずこのような需要は軍事部門にある。このプロジェクトの軍事的開発の必要性が、どれほど政治的に証明できるかは、今後の課題となってくる。

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