乾燥から潤いへ

=タス通信撮影

=タス通信撮影

ロシアでは、すでに何年か「老化防止薬」の実験がすすめられている。薬は「スクラチョフ・イオン(SkQ)」と呼ばれ、現在臨床試験を完了し、目の老化による病気を予防する、「ヴィゾミチン」(Vizomitin)剤として、今夏から薬局で販売される予定だ。今のところ、涙が不足して目が乾く眼球乾燥症候群にしか適用されていない。この薬を開発し、プロジェクトの指揮を取っている科学アカデミー会員(生物学博士)、ウラジーミル・スクラチョフ氏(77)に、プロジェクト全般について聞いた。

 

ウラジーミル・スクラチョフ=PhotoXPress撮影

科学アカデミー会員(生物学博士)、

ウラジーミル・スクラチョフ氏(77)
  =PhotoXPress撮影

-なぜ最初の臨床試験に、眼球乾燥症候群をお選びになったのですか。

第一に、これは直らない病気なので、どんな成果でも喜ばれるからです。私たちのコンセプトでは、多くの治療不可能な病気は、病気ではなく、老化プログラムが進んでいるということなのです。

第二に、眼球乾燥症候群には対症療法しかなく、原因を取り除けないからです。

-スクラチョフさんは、ご自身のお薬で目を治療されたと伺いましたが。

両眼に老人性白内障が始まり、右が特にひどかったのです。医師が水晶体の交換手術が必要だと言ったので、1カ月半時間を置き、その間この薬を飲んだのですが、再度診察に行くと、医師はやっぱり片方の目を手術すると言いました。超高齢マウスには薬が効かないので、俺は年寄りネズミか、と思いました。もう一方の目は手術せずに、薬を服用し続けました。8か月後に診察に行くと、医師にこう言われました。「白内障をどこにやったのですか。無くなったので手術は必要ありませんね」と。

-「老化防止薬」の主要な目的は、肉体の老化プログラムを止めることで、近い将来、臨床試験を始めるそうですが、それはいつになりますか。

来年には始めたいと思っています。

-どのような試験になりますか。人間はマウスと違って長く生きますが、どのように効果を確認しますか。

老人性疾患の治療のようになります。いくつかの試験方法があり、創傷治療はとてもうまくいっています。老人が治癒まで長引いて苦しむことはよく知られています。マウスにこの薬を与えると、こういう問題は起こらないことを実証しました。

-心臓病ではどうでしょうか。不整脈などの心臓病は老化からくるものですよね。

そうですね。それが優先順位では次に来ます。マウスで複数の不整脈をシミュレーションしましたが、どれも見事に治っています。

この薬を服用する以外に、老化プログラムを遅らせる方法は、腹八分目ということです。30%食事の量を減らし、肉を食べないことですね。

-点眼薬の活性物質は、「老化防止薬」の活性物質と同じということは知られています。これらの点眼薬を買い占め、内服してしまう人が現れると考えませんでしたか。

点眼薬の活性物質は微量で、2ナノグラムしかありません。山ほど買ってコップに注ぎ、水の代わりに一生飲み続けなければ必要量は得られませんよ。

-内服薬の方が量が多くなりますか。

もちろんです。この薬にどんな名前をつけようかと今考えているところです。

薬とは、身体が病と闘うのを楽にする物質です。私たちがやろうとしているのは、その身体が自ら悪さをすることを防ぐことです。ある中心があって、細胞にゆっくりと自殺行為を働く老化信号を送ります。その中心は遺伝子プログラムによって動いています。私たちは細胞レベルで、その信号の送信を止めるのです。

もし私たちの考えがすべて正しければ、薬はずっと飲み続けなければなりません。遺伝子には逆らえませんから、服用を止めれば、信号の発信が始まります。

もっと読む:


不老不死への期待

-「老化防止薬」が、生物学上の原子爆弾になってしまう恐怖感はありませんか。社会生活をひっくり返してしまうことになりませんか。

ひっくり返すなら、良い方向にでしょう。もちろん、例えば、「社会的流動性」が機能しなくなるという結果も想像できますけれども。職場の上司が永遠に若いので、ずっとそのまま居座ってしまうとかですね。

実際には、厳しい流動制度を作るなど、すべてが政治的に解決されるでしょう。私は政治家ではなく、生物学者ですから、できることを提案するだけです。長寿は現時点でも起こっています。19世紀に比べて寿命は2倍に伸びていますから。

-すでに抗生物質という革命を体験しましたね。

そうです。抗生物質の発明にクレームをつけた人はいません。

私は人間が800歳まで生きると言っているわけではありません。私たちの薬で癌治療はできませんから、人間は癌になるまで生きるということになります。

寿命をどれほど伸ばせるのかわかりませんが、それは重要ではありません。肝心なのは、子供時代に身体的な問題を抱えてしまって苦しむような人々がなくなる、いうことなのです。動物実験では成功しましたから、人間でも成功する可能性があるのです。